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広報担当者のための企画書のつくり方入門

「フィールドワーク」の発想を取り入れた広報企画のつくり方

片岡英彦氏(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

フィールドワークを活用する

近年多くの企業が“フィールドワーク”の概念を活用し、消費者のリアルな声を広報戦略に反映させようとチャレンジしている。フィールドワークとは、研究対象となる現場に直接自ら赴いて調査を行う手法のことだ。その目的は、現場の実態を深く理解し、より正確で豊かな情報を得ることにある。例えば、ある日用品メーカーは、主婦の生活実態を観察する目的でフィールドワークを実施。全国各地の家庭を訪問した結果、「洗剤の計量が面倒」「部屋干し臭が気になる」などの潜在的ニーズを発見でき、顧客インサイトに基づいた新しい洗剤が発売されるに至った。さらにフィールドワークで得られた生の声を広告や商品PRで活用することで、「消費者の声に耳を傾ける企業」というブランドイメージの向上にも成功している。今回は、このようなフィールドワークが広報戦略にもたらす効果と、企画書作成のノウハウを具体的に考えていきたい。

視点1
フィールドワークをいかに活用するか

フィールドワークとは何か

フィールドワークとは、担当者が直接現場を訪問し、観察、インタビュー、実験などを通じて通常手に入りにくい“生”の情報やデータを収集することに重きをおいた調査活動のことである。具体的には、担当者が自ら対象集団に加わり「中の人」となって現状を観察する「参与観察」、自由な対話から顧客の情報を徐々に引き出す「非構造化インタビュー」、現場で変数を操作しその影響を定量的に測定する「フィールド実験」などが挙げられる。フィールドワークは、人類学、社会学、マーケティングリサーチなどの学術的分野で活用されてきたが、近年では、企業のマーケティングや広報活動においても重要性が増してきている。

私自身、報道記者やネットマガジン編集長として、数々の現場に足を運び、災害現場から政治活動の現場やホームレス支援現場まで、人々の生の声を聞いてきた。しかし、「対話から相手の本音を引き出す」という意味においては、なかなか本音を引き出せない、あるいは想定外の反応に直面したり、信頼関係の構築までに多くの時間がかかりすぎてしまうなど、現場取材ならではの難しさも痛感してきた。

また、企業の社会貢献活動を広くアピールする新しい広報キャンペーンを開始するにあたり、その活動拠点周辺の地域限定で試験的にフィールドワークを実施したことがある。結果、活動の認知度自体は期待通りに上がったのだが、同時に予想外の反応が生まれた。企業としての活動の本気度を疑う懸念の声や、さらなる貢献を求める要望が強く、対応に追われることになった。メディアの問い合わせも急増して、広報部門の負担が大きく増えたことから、単に認知度を上げるだけでは十分ではなく、さらに包括的な広報戦略を練ることの重要性を知ることとなった。

なぜ今、フィールドワークが注目されるのか

インターネット上の情報が氾濫する現代社会において、現場からしか得られないリアルな声の価値が再認識されている。広報活動においても、ステークホルダーとの直接対話から得られる生の情報が、効果的な戦略立案と実施に不可欠となっているため、フィールドワークが注目を集めている。

例えば、記者やインフルエンサーとの直接対話、問題発生現場での迅速な調査、消費者との本音での対話、企業ブランドに関する社員との直接的なコミュニケーション、地域社会との交流など、現場での直接的な情報収集によって、より現実に即した広報戦略の立案と実施が可能になると考えられる。

ただし、こうしたフィールドワークを実施する際には、調査対象者のプライバシーや日常生活への影響、得られた情報の適切な取り扱いなど、倫理的な配慮の面から様々な課題が浮かび上がる。また、時間やコストの制約、調査者のバイアスなども考慮しなければならない。これらの課題に対処しつつ、フィールドワークを効果的に活用していくことで、より説得力のある広報戦略の立案が可能となる。

図1 フィールドワークの活用方法

フィールドワークとは

研究対象の現場に直接赴き、生の情報やデータを収集する調査手法

具体的な方法

  1. 参与観察:研究者が対象集団に加わり、内部から観察する
    例:広報担当者が社内イベントに参加し、社員の反応を直接観察

  2. 非構造化インタビュー:自由な対話を通じて情報を引き出す
    例:記者との懇談会で、事前に決めた質問項目にとらわれず柔軟に対話

  3. フィールド実験:現場で変数を操作し、その影響を測定する
    例:異なるプレスリリースの形式を複数のメディアに送り、反応の違いを分析

広報担当者にとっての活用分野

  1. メディアリレーション:記者との関係構築、ニーズ把握

  2. 危機管理コミュニケーション:現場での迅速な情報収集と対応

  3. ブランド戦略立案:消費者の生の声を戦略に反映

  4. 社内広報:社員の本音や組織文化の深層理解

  5. イベント企画・運営:参加者の反応をリアルタイムで観察

  6. ステークホルダーエンゲージメント:多様な利害関係者との直接対話

フィールドワークが注目される理由

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