「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
ブランドジャーナリズムとは
「ブランドジャーナリズム」という言葉を耳にする機会が増えてきた。まるで流行りの “バズワード” のように聞こえるかもしれないが、広報担当者にとっては無視できないトレンドでもある。企業がオウンドメディアを通じて、単なる情報発信にとどまらず、顧客の心を動かすようなコンテンツを発信する。これがブランドジャーナリズムだ。従来のプレスリリースや広告出稿とは異なり、ブランドジャーナリズムは、ストーリーテリングを通じて企業の価値観や理念を広く伝え、顧客との共感を深めることで、最終的には長期的な関係を築くことを目指す。
今回はブランドジャーナリズムを効果的に活用した企画書の作成方法に焦点を当て、ストーリーテリングの役割や具体的な企画立案、及び効果測定まで考えていきたい。
視点1
なぜ今ブランドジャーナリズムなのか
ブランドジャーナリズムの役割と変遷
広報担当者の多くが、自社情報の効果的な発信に日々悩んでいることだろう。特に従来型のプレスリリースや広告出稿だけでは、情報が多すぎて埋もれやすく顧客の心をつかむことは難しい。そこで注目されてきたのが、ブランドジャーナリズムだ。ストーリーテリングを活用して企業の価値観を広く知ってもらい、顧客からの共感を得ることで長期的な関係を築いていく方法である。
かつて企業のオウンドメディアは、プレスリリースや製品情報の掲載(二次配信)が主な役割だった。しかし、インターネットやソーシャルメディアの普及により、その役割は大きく変化した。現在、オウンドメディアは企業の価値観やビジョンを顧客を含め広く社会全体に向けて直接発信する場となっている。社会との双方向コミュニケーションを促進するプラットフォームへと進化したといえる。
ブランドジャーナリズムという考え方の浸透により、オウンドメディアは単なる情報発信ツールから、ブランドと顧客の関係性を深めるための戦略的ツールへと変貌を遂げている。企業はオウンドメディアを通じて、自社のストーリーを語り、共感を呼び起こし、顧客とのエンゲージメントを高めることで、ブランド価値の向上と持続的な成長を目指そうとしている。
ブランドジャーナリズムの現状と課題
広報担当として私が常に悩んできたのは、巷に様々な情報があふれる中で、いかに効果的な発信をするかだ。自社メッセージが埋もれないように配慮しつつ、どうすれば顧客との間に相互の信頼関係を築けるのか。そんな時、ブランドジャーナリズムの観点から、自社の価値観をストーリーとして伝えることで、顧客との共感や長期的な関係を築けると実感したことがある。例えば、自社製品の開発者インタビューをブログに掲載して、自社製品に込められた情熱や開発の背景を詳しく紹介したり、NPOによる医療支援活動を動画で配信して社会的責任への取り組みを視覚的に伝えたりした時である。
近年、多くの企業がブランドジャーナリズムに取り組み、ブログ、オウンドメディア、動画、SNSなどでオリジナルコンテンツを発信している。特に、顧客のニーズに応えるコンテンツや業界分析、またエンタメ要素の高い動画や社会課題に関する情報などが注目され、企業ブランドの価値向上に大きく貢献している。しかし、同時にブランドジャーナリズムの実践においてはいくつもの課題が存在する。
まず「コンテンツの質の確保」の問題だ。単に情報を発信するだけでなく、顧客にとって価値のある質の高いコンテンツを継続的に制作し発信するためには、専門知識ばかりではなく、ライティングスキルを持つ人材の確保などが必要となる。また、ブランドジャーナリズムの「効果測定の難しさ」がある。従来の広告とは異なり、直接的な売上への貢献を測ることは難しい。このため、適切なKPIの設定と評価方法の確立が欠かせない。ブランド認知度やエンゲージメント、ウェブサイトへのトラフィック、リード獲得数など、多角的な視点から効果を測定し、日々改善していく必要がある。さらに、「組織的な課題」も存在する。ブランドジャーナリズムを成功させるためには、広報部門だけでなく、マーケティング部門、経営層など、組織全体が共通の目標に向かって取り組む必要がある。社内体制の構築、専門人材の育成、コンテンツ制作に必要な予算確保などの課題解決が求められる。
ストーリーテリングによる効果
ストーリーテリングは、聞き手の感情に訴えかけ、共感を呼び起こし、行動を促す強力なツールとなり得る。…