【あらすじ】
15年前、高校時代に起きた土砂災害で母を失った宮城健太は、1年前から地元県庁の広報課に所属し、危機管理広報を任された。危機管理統括部と連携した対応策の作成を1年かけて粘り強く交渉し、危機対策統括委員会での提案に至る。しかし、危機管理を担当する危機管理統括部ですら危機管理意識は皆無だった……。
明日起きたらどうしますか?
「この時期は雨の降る日が多くなりますので、時間に余裕を持ってお出かけください。また、ここのところ小規模ではありますが地震も起きていますので、お出かけの際にはお気をつけて」「今日の未明にも揺れましたからね。お気をつけください」慌ただしく朝食を食べていると、テレビからアナウンサーと気象予報士のやり取りが聞こえてくる。
コメントなど気に留めていられない。寝坊した朝は時間ばかりが気になる。「もっと早く起きればいいだけでしょ。お父さんは毎日、五時過ぎには起きているのよ」父親の朝は早い。毎朝六時三〇分には出かけるので、平日に家族三人で朝のテーブルを囲むことはない。
「健太、傘持ったの?」「持ったよ!」うるさいなあと小声で呟く。「うるさいとはなんだ!」母の美佐江に聞こえていたようだ。肩を竦める。「行ってきます」「気をつけてね」玄関先で美佐江が笑顔をつくる。もう子供じゃないっつーの。
傘を差しながら歩くと、パンツの裾があっという間に濡れて靴下にも染みこんできた。駅まで歩いて一〇分の距離が今日は長く感じる。こんな日は学校をサボりたくなるが、今日から学期末のテストだ。「よお」信号待ちしていると濵田典弘が声をかけてきた。典弘は幼稚園からの幼馴染だった。
高校は別々になったが、たまに会うと気兼ねなく会話する仲だった。「月曜の朝から雨とは嫌だねえ」「まったくだよ。今日からテストだっていうのに」「俺もだ」家を出てほんの数分だが、 雨脚が強くなってきている。「夜中の地震、結構強かったな」典弘が驚いた顔をしてみせた。「地震?」「お前、知らなかったの?」テスト勉強をしていたつもりが、活字を読みながら目を閉じてしまい、気づけば布団の中だった。
「何時頃だよ」「えーっと、夜中二時頃かな」震度四だったらしいと典弘が付け加えてくる。「結構揺れたんだな……」「強かったぜ、それで寝ていられるお前がうらやましい」典弘が身体を揺らしておどけてみせる。「地震で起きたことないなあ」「そんな奴が生き残るんだよなあ」話しているうちに駅に着いた。雨はさらに強くなってきている。
「じゃ、またな」宮城健太が片手を上げる。「おー、テスト頑張ろうぜ」典弘も手を上げてこたえる。「震度四だったのか」健太はズボンのポケットからスマホを取り出し、…