従業員のモチベーション向上や離職防止につながる「心理的安全性」。
なぜ「心理的安全性」が注目されているのか、そして社内コミュニケーションで広報担当者が押さえておくべきポイントは何か。人事と心理学の関係に詳しい曽和利光氏が解説した。
「Works Report 2023」(リクルートワークス研究所)によると、2030年には341万人、2040年には1100万人の労働供給不足が推定されています。労働力人口の絶対数が減る以上、社会全体では、個々人の生産性を高めるしかありません。ひとつの大きな動きとして近年、働く人のモチベーション向上や離職防止のため、組織に「心理的安全性」が必要であるとされ、様々な企業で取り組みがなされています。本稿ではなぜ心理的安全性が必要で、そのためには具体的にどのようなコミュニケーション施策を行えばよいのかについて解説します。
「心理的安全性」とは何か
「心理的安全性」(psychological safety)とは、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソンが1999年に提唱した概念です。彼女によると「チームメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしない確信を持っている状態で、“チームは対人リスクをとるのに安全な場所”との信念がメンバー間で共有された状態」と定義されます。細かいことですが、正確に言うと「個人の心理的状態ではなく、“チームの状態”を指していること」を押さえておくべきです。エドモンドソンは他に「率直であることが許されるという感覚が醸成されていること」という表現もしています。
図1 心理的安全性の概念
チームメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしない確信を持っている状態で、“チームは対人リスクをとるのに安全な場所”との信念がメンバー間で共有された状態を指す。
ポイント個人の心理的状態ではなく、“チームの状態”を指す。
「プロジェクト・アリストテレス」
日本においてこの概念が有名になったきっかけは、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる2012年の調査でしょう。社内の様々なチームを対象に、どのチームの生産性が高いかを調べました。そこで発見されたことは「心理的安全性の高いチームのメンバーは、離職率が低く、多様なアイデアをうまく利用でき、収益性が高く、マネジャーから評価される機会が2倍多い」というものです。これが広まって「心理的安全性の高い組織をつくろう」というムーブメントとなりました。日本人の調和的な文化気質にも合った結果だったことも、ムーブメントとなった一因といえそうです。
優しく接する=よいではない
ただ、誤解もあります。エドモンドソン自身も述べていますが、心理的安全性とは「ただ、優しく接すればよい」ということではありません。例えばメンバーが議論中に変なことを言っていた時「否定はしては...