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広報担当者のための企画書のつくり方入門

「聖地」を活用した地域PRの企画書を書きたい!

片岡英彦氏(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

聖地ブランディングとは

特定の地域や場所を「聖地」として位置づけ、その魅力を最大限に引き出す形でブランディングを行うことを「聖地ブランディング」と呼ぶことがある。この戦略の中心にあるのは、文化的、歴史的、あるいは自然的価値を持つ「場所」の独自性と魅力を創出し、それらをターゲットに向けて効果的に伝えていくことである。例えば、映画のロケ地、文学作品の舞台、歴史的事件の地、自然の絶景地などが聖地としてブランディングの対象となり得る。

映画作品のロケ地を国内外で巡ったり、歴史上の人物に所縁のある土地や大きな事件が過去に起こったりした史跡などを巡る観光客は多い。いずれも、この土地が聖地として知られているからこそ訪れたのであり、そこには聖地に相応しい「ストーリー」が必ず存在している。

今回はこうした聖地を活用した地域PRの可能性について掘り下げ、実際に企画書を作成する際のポイントを考えていきたい。

視点1
聖地ブランディングの基本

「聖地ブランディング」の価値

「聖地ブランディング」の価値は、単に一時的な話題づくりで人々からの注目を集めることではない。より深いレベルで、訪問者やファンとその「土地」との間に強い感情的な結びつきを生み出し、地域の文化や価値を広く伝えていく点にある。地域はその場所固有の物語や魅力を通じて、独自のブランドアイデンティティを築くことが可能である。さらに、観光促進や地域経済の活性化、文化遺産の保存など、幅広いメリットを享受することにもつながる。

「聖地」を選定する

聖地を選定する際の基準は多岐にわたるが、重要なのはその場所が持つ「独自性」と「象徴性」である。図1にある観点を考慮して選定を行っていく。この選定プロセスは、ただの「場所を宣伝する」以上のものであり、土地と地域への深い洞察と戦略的な広報計画が必要である。どのようにして聖地の物語を構築し、ターゲットオーディエンスに響くコンテンツを創り出すかが、成功の鍵となる。

図1 「聖地」の選定基準

  • 文化的、歴史的、自然的価値が高い場所
  • 社会的、心理的に重要な意味を持つ場所
  • アニメや映画のロケ地など、現代のポップカルチャーから生まれた場所
  • アクセシビリティ
    (物理的、デジタル的にアクセスしやすい)

図2 観光客の増加や地域経済の活性化を実現した「聖地」の事例

埼玉県久喜市鷲宮

アニメ『らき☆すた』の舞台、鷲宮は、アニメファンの聖地巡礼が増加したことを契機に地域振興に取り組んだ。アニメファンと地元住民の協力関係を築き、アニメ関連イベントの開催、アニメをモチーフにした商品開発、伝統的な祭事へのアニメ文化の取り入れなど多角的な施策を実施した。この事例はポップカルチャーと地域ブランディングの融合がいかに効果的であるかを示している。ファンの情熱を地域経済に直接的に結びつけ、継続的な観光収入と地域の活性化を実現している。

愛媛県今治市

今治市はしまなみ海道をサイクリストにとって特別な存在としてブランディングするため独自のPR戦略を展開した。その結果、国内外のサイクリストから高い評価を得て、サイクリングコースとしての確固たる地位を確立した。今治市の取り組みは、特定のターゲットグループ(サイクリスト)に焦点を当てることの重要性を示している。専門的なニーズに合わせたインフラとサービスの提供がブランドの魅力を高め、訪問者の満足度を向上させることに直結している。

ホビット村

映画『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』シリーズの撮影で使われたセットを残し、世界のファンを引き付けるのがニュージーランドにあるホビット村。映画ファンと地域住民との協力関係を築き、映画のセットを公開してガイドツアーを実施するとともに、関連グッズの販売や映画の公開記念イベントなど多角的な取り組みを通じて地域振興を図っている。エンターテインメント資源を活用することで文化的価値と商業的成功の両方を確保する方法を示している。

地域の魅力が再評価されるには

図2のような事例から分かる成功要因は、それぞれの聖地に新たな意味やストーリーを与え、地域の魅力を再評価させることに成功した点にある。地域が持つ独自の物語や文化的価値を深く理解し、「意味を与える」ことで地域ブランディングを戦略的に展開している。この過程において、広報担当者は重要な役割を果たす。その役割とは、地域の魅力を深く理解し、それを効果的に伝えるストーリーを創造すること。そして、ターゲット層とのコミュニケーションを通じて、ニーズや期待を把握し、それに応えるブランディング戦略を立案すること。さらに、メディアやインフルエンサーとの関係構築を通じて聖地の認知度を高め、ブランドイメージの向上に貢献することだ。

また事例からは、ターゲット層との強い感情的結びつきを形成し、独特の体験を提供することも、ブランディングを成功させる上では欠かせない要素であることが分かる。広報担当者は...

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