メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は広島経済大学の山田哲敬ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2021年 |
学生数 | 3年生8人、4年生6人 |
OG/OBの主な就職先 | OG/OBの主な就職先:山口朝日放送、エバルス、広島県厚、生農業協同組合連合会、ネクシィーズ、日東通商、トヨタカ、ローラ広島、マックスバリュ西日本(2023年卒) |
現代社会のビジネスは、メディアやICT(情報通信技術)の急速な進化によって大きく変化し、AIによるチャットサービスをはじめ、新たなコンテンツやアプリケーションについての理解と習熟が不可欠となっている。そうした中、広島経済大学メディアビジネス学部では、変化が加速するメディア環境や最先端のICTに関する事柄を学び、時代を切り拓いていく人材を育成している。また、記者やアナウンサー、広告会社勤務など、メディア業界に豊富な経験と専門知識を持つ実務家教員が多く在籍。
中四国地方では珍しい放送局仕様のスタジオやコミュニティFM放送局を運営するラジオブースも備えるなど、優れた設備環境も特徴の1つ。メディアビジネス学科には「メディア・プロデュース型」と「メディア・マーケティング型」の2つの履修モデルがある。
価値あるテーマを見抜くセンスを養う
山田哲敬教授のゼミのテーマは、「地域社会におけるジャーナリズムの研究と実践」。単に、アカデミックな知識を身につけるだけでなく、“実践力”の醸成を目指し、実際のドキュメンタリー作品制作を中心に活動を展開している。
ゼミ生は3年の前期に、地域におけるテーマを見つけてドキュメンタリーを制作する。企画会議→企画決定→取材→撮影→編集と進む中、テーマ決定の段階では、ゼミ生自らが“より良い社会のため”に価値あるテーマを“見抜くセンス”が養われる。これが後に、独自の研究テーマを見つける力や社会的な問題に対する敏感さの習得につながっていく。
取材活動では、対話とリスニングの技術によって情報提供者へのインタビューの質を高め、より深い情報や視点を引き出す能力を身につける。編集作業では「本当に訴えたいことは何か」を明確にし、訴えたいメッセージを効果的に伝える手法を学ぶ。「編集作業はまさに“生みの苦しみ”を伴います。これを乗り越えることで、仲間と協力しながら目標に到達する力やメディアそのものへの深い理解が身につきます」と山田教授。作品は「作品上映会」(映像のプロも参加)で発表され、ゼミ生たちが初めて社会的評価と向き合う貴重な機会となっている。
後期は、前期に制作した作品に追加撮影や編集などを行い映像コンテストに応募したり、4年で行う卒業研究のテーマを調査し、卒業論文作成計画書を作成する。4年次には、ドキュメンタリー作品と卒業論文を完成させる。主な卒論テーマは、「地方メディアの役割と必要性―『黒い雨から76年 短命村と呼ばれた里から』への取材体験から考える」、「現代におけるコミュニケーションのあり方―友好的な人間関係を築くためのヒントを紐解く」など。
学年を超え、互いに腕を磨くゼミの伝統
「東京ビデオフェスティバル」(2022年11月)には、3年と4年からそれぞれ作品を応募した。「地方の時代」映像祭で大きな賞をもらった学生をリーダーとし、「パーキンソン病」のテーマで取り組んだ4年生は、膨大な素材の中から、削る部分と使う部分を決める最終段階の編集作業に1カ月近くを要した。20分の作品を20回以上見直し、都度山田教授に報告する先輩を見ていた3年生は、その姿を追って「知的障がい」がテーマの作品に懸命に取り組み、競うように編集作業を始めたという。「テレビ局で見てきたディレクターたちよりも熱心なゼミ生たちの姿には、感動すら覚えました」と山田教授。結果、4年生の作品は「とても丁寧に取材し構成している」との評価で入賞。3年生は入賞が叶わなかったが「学年を超え、互いに切磋琢磨して学ぶことをゼミの伝統としていきたいですね」と同教授は話す。
テレビや映像制作に興味を持つゼミ生たちにフィールド取材に出向く機会を設け、実社会で何ができるかを探求することを強調してきた山田教授。「作品は1人ではつくれませんから、チーム員が積極的に議論に参加し、意見を出すことが大切。問題意識を持ち、社会がより良くなるためにその問題を多くの人に知ってもらうこと、そして、自分事として考えられる真のテーマを見つけることのできるメディア人になってほしいと考えています」(同教授)。
テレビ業界での実務経験を大学という新たなステージで活かす
前職で定年が近づいた頃、地元テレビ局から大学へ転職した先輩から大学で教えることを打診された山田教授。「ニュース取材やドキュメンタリー制作の経験は、大学教育で求められるアクティブラーニングに通じる」と背中を押されたことで、長年、地元のメディアで働いていながら、大学との連携が薄かった反省点を思い出し、今後は大学と地元メディアの架け橋になりたいと転身を決意した。
研究活動、学生指導、授業の企画・運営など、責任ある業務の多い大学教員には、難しさを感じる一方、アクティブに研究に参加し、課題解決を行っている学生を見るとやりがいを感じるそう。「今後もテレビ業界で培った知見とスキルを活かし、教育の質をさらに向上させる方策を探り続けていきたいと考えています」。