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企業のサステナビリティ

パーパスと一貫性のある情報開示で共感集め企業価値高める

保田隆明(慶應義塾大学)

企業価値を持続的に高めるため、ESGへの取り組みが求められる昨今。投資家の評価を集めるにはESG情報の開示も重視されている。社内外への理解を促し共感を集めるための情報開示のポイントとは。

    Q.1 ESGに関する情報発信の重要性が高まっているのはなぜですか?

    企業がESGの取り組みを正しく発信しないと評価につながらず、投資も集まらない流れになっているため。

    本業で社会課題を解決

    最初に押さえておくべきは、ESGは単に社会貢献を促進するものではないということ。まだ満たされていないニーズである「社会課題」をビジネスの力で解決することを指します。つまり、ESGは環境や社会に負荷をかけながら儲けることへの贖罪としての社会貢献といった文脈ではなく、「収益の拡大」と「社会貢献」を両立させる考え方です。

    では、なぜ今ESGの取り組みが重要なのか。そこには環境意識の高い「消費者」に加え「機関投資家」(顧客の資金を運用・管理する法人投資家の総称)の存在があります。背景を振り返ると、2006年に「責任投資原則」(PRI)が提唱され、機関投資家にESG課題(環境、社会、企業統治)への考慮が求められるように。この原則に署名した機関投資家によって、企業がESGの取り組みを行っていないと評価(投資)されない流れになったのです。

    利害関係者への配慮をアピール

    これに伴い、企業には「株主資本主義」(会社は株主のものであり、株主の利益を最大化するために経営されるべきという考え方)から、「ステークホルダー資本主義」へ脱却することが求められています。「ステークホルダー資本主義」は、株主だけでなく、顧客・取引先・従業員などすべての利害関係者へ対し、企業活動を通じて貢献すべきという考え方です。

    「株主の利益」を追求するのは重要ですが、それによって「ほかのステークホルダーが犠牲を払うべきではない」ことを強調しています。つまり、サプライチェーンでの人権侵害などを黙認して、原料を安く調達し、企業と株主のみが利益を得るようなビジネスは評価されません。すべてのステークホルダーのウェルビーイングに配慮した経営と、その情報開示が求められるのです。

    反ESGには丁寧な対話が必須

    一方、最近は一部の地域でESGへの逆風も聞こえてきますが、これはE(環境)をS(社会)・G(企業統治)と分けて議論すべき問題です。SとGは揺り戻しが少ない一方で、環境関連は利害関係者が多いため、反対意見が出やすいのです。

    一例として、化石燃料が豊富に採れる米テキサス州では、「化石燃料企業への投資を見送る」といったうねりに反対する流れが加速しています。ここでの反省点は、ESGの推進のために強いメッセージを唐突に発信したこと。ただ、温暖化ガスの排出を削減しないと地球の破壊につながるのは必然のため、ESG重視の流れは不可逆的でしょう。「段階的にクリーンエネルギーに移行していく」といった丁寧な発信と対話で理解を得ることが重要です。

    ESGの発信を腹落ちさせるために、企業の広報担当者にもステークホルダーに配慮したコミュニケーションが期待されています。

    Q.2 ESGに関する情報をどのように伝えれば、投資家や消費者といったステークホルダーの評価につながりますか?

    「社会的に正しいことをしよう」と押し付けるのではなく、共感されるメッセージの発信が重要です。

    取り組みとパーパスの連動

    ESGは端的にいえば「社会的に正しいことをしよう」ということ。しかし、これをそのまま伝えるのでは、人の心は動きません。事業価値に加え、社会価値の追求という自社の「パーパス(企業の社会的な存在意義)」をいかに伝え、ステークホルダーの共感を得るかが鍵となります。昨今はパーパスを打ち出す企業が増えており、その多くは何らかの形で社会貢献性をうたったものです。パーパスとESGの取り組みを紐づけると「取り組みを行う意義」が伝わりやすく、ステークホルダーの賛同を得ることができるのです。

    投資家へ自社の情報を伝える「統合報告書」にも、パーパスを効果的に活用すべきです。ただ現状の多くの統合報告書は、画一なフォーマットの上で「社会的に正しいことをしている」とアピールしているだけで独自性がない。「面白くない」ので、隅から隅まできちんと読んでいる投資家はほとんどいないでしょう。この企業の独自性を補うのに...

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