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リスク広報最前線

記者会見の様子をウェブ配信 危機管理広報でのメリットは多い

浅見隆行

複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

問題の経緯

2023年3月7日

JAXA山川宏理事長は3月7日の記者会見にて、H3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗を受け「搭載された衛星の関係者の皆様、地元の皆様、多くの国民の皆様のご期待に応えられず深くおわび申し上げます」と話した。

JAXAはH3ロケット試験機1号機を打ち上げたが、第2段エンジンが着火せず、指令破壊信号を送出。打ち上げに失敗したことを受け、記者会見を開いた。「H3」は、国家プロジェクトとして9年前に開発を開始。2月にも打ち上げに臨んだが、異常発生で打ち上げが中止されていた。

3月7日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)はH3ロケット試験機1号機の打ち上げに失敗しました。2月17日に異常を検知して打ち上げを中止した後の再度の打ち上げだっただけに「今度こそ成功してほしい」との期待は大きかったのですが、失敗しても、SNSでは「次は頑張ってください」など好意的な意見が多く見られました。

一大プロジェクトに失敗しても好意的な意見が寄せられた例として、今回は、このケースを検討します。

応援の声が集まった理由

JAXAによる打ち上げは、2022年10月のイプシロンロケットの失敗、2023年2月のH3ロケットの中止、今回の失敗と、3回連続で成功しなかったことになります。一般的には3回も連続してうまくいかなければ、世の中からは批判の声が高まってもおかしくない状況です。しかし、現実は、JAXAに対する批判の声は少なく、応援する声が目立ちました。

もちろん、その要因としては、打ち上げの難しさを世の中の人たちがある程度理解していたことが考えられます。ただ、それだけでなく、これまでの記者会見を通じて、JAXAの研究者たちの誠実な姿勢を広く伝えられていたことが最大の要因のように思います。打ち上げに向けて必死に努力している姿勢を見せられて、世の中の人たちが判官贔屓していたのではないでしょうか。その意味で、これまでの記者会見が危機管理広報として成功していたと評価できます。

ダイレクトに姿勢が伝わる

JAXAがこれまでに行ってきた記者会見が、事業会社が不祥事や事故を起こした後の記者会見と違った点は、①ウェブ会議システム(Webex)を利用して記者に参加してもらい、②会見の様子をYouTubeでライブ配信していたことです。なお、プレスリリースや補足資料(会見で使用する図面)もYouTubeの概要欄にリンクを貼ってウェブ上で配布していました。②の会見そのものをYouTubeなどウェブを利用してライブ配信するケースは、最近、増えています。

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