SNS運営会社の方針転換を機に、利用環境に変化が起きている。拡散力が大きいSNSだが、過度な依存はリスクにもなる。発信力や危機対応力を維持するには、広報メディアの位置づけを見直すことが必要だと筆者は指摘する。
日本新聞協会が発表した2022年10月の一般紙発行部数は約2869万5000部と、ついに3000万部の大台を割り込んだ。前年を196万部下回っており、減少ペースも鈍化していない。こうしたオールドメディアの凋落ぶりを見ると、広報もSNSやオウンドメディアなどネットによる直接発信に力を入れたくなるだろう。
しかし、事態はそれほど単純でもない。過去一年のメディア環境の変化を振り返り、2023年の広報業界への影響を考えてみよう。
マスク氏買収後のツイッター
今後の広報戦略を考える上で無視できないのが、2022年秋のイーロン・マスク氏によるツイッター買収だ。日本は人口当たりのユーザーが多いので、情報発信に与える影響は特に大きい。
買収計画が二転三転したので注目を集めたが、「マスク劇場」は現在も続いている。とりわけ目を引くのが、広報など管理部門を中心とした大規模リストラだ。従業員の約半数をレイオフ(一時解雇)し、技術者中心の体制に変えた。懸念されたシステム障害などは本稿の執筆時点で発生していないが、ツイッターのタイムラインにはすでに変化が起きている。ニュース記事の露出が減ったのだ。
これはツイッターがネットメディアの記事を人力でピックアップする「キュレーション」を停止した影響が大きい。同時に、メディアのアカウントが記事を紹介するつぶやきも、閲覧数が目に見えて減った。これらが恒久的な措置かどうかは不明だが、ネットメディアに大きな打撃を与えていることは間違いない。
ハフポストやバズフィードといったネット専業メディアは「バイラル(感染)メディア」と呼ばれる。ちょうどウイルスが蔓延する時のように、人から人へとねずみ算式に情報を拡散させるからだ。コロナ禍が始まったころ、世界保健機関(WHO)がデマなどの「インフォデミック(情報のパンデミック)」を警告したが、情報の伝わり方とウイルスの感染拡大には似た面がある。
では、何が情報の感染を媒介しているのかと言えば、ツイッターをはじめとしたSNSである。バイラルメディアのコンセプトを思いついたのは、ハフポストなどの創業者の一人、ジョナ・ペレッティー氏だとされる。彼は学生時代に電子メールの口コミ(一種のチェーンメール)に着目。職場のパソコンの前で時間を持て余している人々に、思わず誰かに伝えたくなるような情報を流せば、爆発的に...