複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
問題の経緯
2022年12月15日
東証プライム上場企業のTOKAIホールディングスは、前社長・鴇田勝彦氏の不適切な経費の使用について調査報告書を開示。不正が疑われる経費は1000万円以上、会社の保養施設で女性コンパニオンと混浴を繰り返すなどの行為があったと指摘した。鴇田氏は中小企業庁長官などを務めた元官僚。2022年9月に内部通報により問題が発覚し社長から解職されていた。
2022年12月15日、TOKAIホールディングス(TOKAIHD)は、鴇田勝彦前社長が1000万円以上を会社の経費として不適切に支出していた可能性があることや、会社の保養施設で女性コンパニオンと混浴していたことなどを明らかにする報告書を公表しました。上場企業のトップによる権限の濫用、前時代的な倫理感覚などが複数のメディアやSNSで注目されました。今回はこのケースを題材に、企業トップが起こした不祥事に対する危機管理広報のあり方について説明します。
ガバナンス機能を印象づける
TOKAIHDがこのケースを初めて公にしたのは、2022年9月15日でした。「鴇田氏による不適切な経費の使用が内部通報により発覚した」ことを理由に、同日付で代表取締役社長から解職したことを明らかにしたのです。
内部通報から解職の決議をするまでに事実関係がどの程度判明していたのかは分かりませんが、それでも内部通報をきっかけに上場企業のトップを解職する決議をしたことは英断です。これによって、TOKAIHDは取締役相互の監視監督が働いている、内部通報を含めたガバナンスが機能している会社であるとの印象を与えることに成功しています。
また、TOKAIHDは、10月11日には、特別調査委員会の構成員3人中2人を変更することも明らかにしました。その理由について、「今般、特別調査委員会の独立性をより高め、より客観性が担保された調査を実施すべきであると10月4日に当社監査役より提言がありました」と説明しています。これによって、TOKAIHDは、形ばかりの特別調査委員会を設置したわけではないこと、身びいきの甘い調査をするつもりもないことなどをアピールし、調査の本気度を伝えることにも成功しています。
往々にして、企業トップに対する内部通報は甘い結論になりがちで、その対応如何によっては、かえって企業に対する信頼を失わせることにも繋がりかねません。
ところが、TOKAIHDは、解職決議と特別調査委員会の構成員の変更までも広報したことで、新体制に対する信頼の維持・確保に成功して...