メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は法政大学の藤代裕之ゼミです。

藤代裕之ゼミのメンバー
DATA | |
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設立 | 2013年 |
学生数 | 2年生7人、3年生8人、4年生1人 |
OG/OBの主な就職先 | 出版、通信、広告、IT、デジタルマーケティング、コンサルティング、電力会社 など |
法政大学社会学部は、私立大学初の社会学部として1952年に創立された。Google News Labが世界で展開する「Google News Initiative University Network」に、学部として国内で初めて加わり、News Labのフェローによる授業も行われるなど、同大学校歌にもある「進取の気象、質実の風」を体現している。
メディア社会学科には「表現」「分析」「設計」と3つのコースがある。デジタルメディアに対応したカリキュラムになっているほか、社会課題に対し、メディアは何ができるのかといった骨太の議論も行う。未来志向のメディアを学ぶ場であるべく、教員同士も切磋琢磨しているという。
「伝わる」面白さをとことん追求する
ソーシャルメディアが浸透した環境において「伝わる」状態をつくり出すには、スマホやアプリに着目するだけでなく、メディア体験をどうつくるかが重要。そう話すのは、同学科の藤代裕之教授だ。
藤代ゼミでは、電車や駅、家電や自動車など、身の回りのあらゆるものがメディア化していく時代の「伝わる構造」を分析し、設計することに取り組んでいる。2~4年生が全員参加するゼミと、3・4年生が参加する「研究ゼミ」で、メディア設計に関連する文献の購読やメディア制作を行う。ゼミ生が最初に取り組むプロジェクトは、「ゼミ紹介の冊子」づくり。相互インタビューを繰り返して理解を深め、互いの面白さを見つけ合うことから始めるという。「面白さ」は、藤代ゼミで重要なキーワードだ。
企業や地域、ジャーナリストなどとのコラボで研究や実践を進めることもゼミの特徴のひとつ。NTTコミュニケーションズとは、移動時の情報取得と移動への影響について研究。テレビ東京とは、ソーシャルメディアアプリのプロモーションを検討し、学生がプレゼンを行った。地域の情報発信については、島根県益田市真砂地区、長野県白馬村、栃木県足利市、福島県白河市などでフィールドワークを行い、地域の魅力や宝を冊子にして配布している。
また、横浜の新聞博物館では、展示の理解を深める「記者体験プログラム」を提案。多くの小学生に参加してもらえる人気プログラムとなった。
長期休暇には、ジャーナリストやクリエイター、企業の新サービス開発担当者などを交えたワークショップを行い、OG/OBも参加する。研究ゼミでは、まず3年生全員で、秋の学会発表を目指して研究を進め、その後、各自が研究テーマを持ち、調査やフィールドワークなどを経て卒業論文を執筆する。毎年1月末に行う卒論発表会には、OG/OBのほか、企業担当者や地域の人たちも参加し、ゼミ生の成長を見守ってくれているという。

ゼミでの議論の様子

ゼミの制作物の一部
国内のフェイクニュースをゼミ生と解明
2021年、教授が上梓した『フェイクニュースの生態系』はゼミ生の研究がベースになっている。「国内のフェイクニュース研究が進んだのは、ゼミ生のおかげなんです」と藤代氏。
また、2020年に発表したファクトチェックについての論文「Why Doesn't Fact-Checking Work?」は、ソーシャルメディアに関連した国際会議(International Conference on Social Media and Society)に採択されており、グーグルが中心となり、アジア地域対象で開催されるフェイクニュース対策の会議(APAC Trusted Media Summit)でもゼミ生による発表の機会を得た。
加えて、NTT研究所と行った「ソーシャルメディアで拡散しやすいニュースの見出し」の研究においても、機械学習や情報検索に関連した国際会議(CIKM)に採択され、ゼミ生がオーストラリアのメルボルンで発表を行っている。
「不透明な時代を生き抜くには、まずゼミ生自身が面白いと感じ、それを社会や他の人に提供することが重要。何ごとにもワクワクしてとことん考え抜き、本気で向きあってもらいたいですね」(藤代教授)。
新しいメディアへの強い好奇心から研究の道へ
ソーシャルメディアのひとつ“ブログ”が話題になった当時、新聞記者だった藤代教授。誰もが情報発信できるようになれば、新聞記者は要らなくなるのではと危機感を持ったそう。その後、ソーシャルメディアへの期待や課題についての数多くの議論に大きな刺激を受け、自身もブログやTwitterに関する記事を書いたり、研究を行うようになったりしたという。
2019年に法政大学大学院メディア環境設計研究所を設立。「電車移動における情報行動のデザイン」では、乗車時間や混雑状況・目的地により車内で見るメディアが変化することを発表した。「乗車時間が10分を過ぎるとスマホから目を離して風景やサイネ―ジを見ます。さらに長い時間乗車する場合、睡眠や読書などの行動が行われることを明らかにしました」(藤代教授)。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)教授
法政大学社会学部メディア社会学科教授/同大学院社会学研究科長/同大学院メディア環境設計研究所長/ジャーナリスト。1973年徳島県生まれ。徳島新聞社で記者として、社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。NTTレゾナントでニュース編集、gooラボ、新サービス開発などを担当し、2013年から法政大学。