迅速な行動喚起が必要な避難指示。その伝達が一刻を争うこともあります。災害情報論の視点から、情報の受け手の心理について考えます。
近年は災害予測技術の進歩やメディアの整備によって多くの災害情報が住民に届くようになりました。しかし住民が的確に反応して避難しなければ情報の意味はありません。実際、危険を警告する情報が住民に届いても、無視されてしまうことが少なくありません。様々な原因があるのですが、災害社会学では以前から「正常化の偏見」といわれる現象が指摘されてきました。
なぜ危険に対応できないか
正常化の偏見とは「環境からインプットされる情報を日常生活の判断の枠組みの中で解釈しようとし、危険が迫っていることを認めない態度」(三上,1982*)のことです。たとえば職場や学校で火災報知器が鳴り響き「火事です。火事です」と警告されたら、あなたはどうするでしょうか。即座に「まさか火事じゃないよね、きっと故障でしょう」と判断して、何もしないのではないでしょうか。
*三上俊治, 1982, 災害警報の社会過程, 東京大学新聞研究所編, 災害と人間行動, 東京大学出版会, 73-107.
しかし考えてみればこれは危険な態度です。少なくとも本当に火事が起きていないのか、確認するべきではないでしょうか。我々は日常生活では火事を経験することなどなく暮らしています。たまに火災報知器が鳴ったとしてもたいていは誤作動です。したがって何も考えず「大丈夫だ(正常な事態だ)」と思いがちなのです。これが正常化の偏見です。
台風や豪雨災害の...
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