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記者の行動原理を読む広報術

経済安保時代の危機管理広報 外国人従業員を保護する新たな指針を

松林 薫(ジャーナリスト)

経済安全保障の強化に向け、注目が集まる「セキュリティー・クリアランス」。この制度が導入されることになれば、企業は新たな課題に直面し、広報を含めた対応を迫られることになると著者は指摘する。

ロシアによるウクライナ侵攻以降の新聞報道を見ていると、安全保障環境の変化のスピードに驚かされる。日本経済新聞は、10月18日付朝刊から、1面で「分断・供給網」という連載を始めた。米中対立の激化とロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、企業のサプライチェーン(供給網)戦略が、グローバル化からブロック化へと転換。日本企業に変化を迫っているという内容だ。

広報対応が難しくなっている

ほんの数年前の同紙であれば、こうしたグローバル化に反する動きに徹底的な批判を加えただろう。冷戦終結後の30年、世界経済は分業によって成長してきた。その路線を否定するのは経済合理性の面からも安全保障の面からも否定されるべきだ、というのが基本的なスタンスだったからだ。しかし、この連載では分断の進行自体は前提とした上で、企業がとるべき対応について論じていた。日経新聞の変化は、国際関係の潮目が変わったことを象徴している。

そうした目で報道を見ると、最近は日本企業の脱中国や脱ロシアの動きが目立つ。例えば安川電機やダイキン工業が中国からの部品調達を縮小すると報じられた。政府が経済安全保障の強化を進めているため、今後はこうした動きが広がっていくだろう。

しかし、企業にとって「脱中国」がらみの広報は扱いが難しい。中国政府を刺激すれば嫌がらせを受けるリスクがある。企業としては入国規制が緩和されインバウンドが回復する中で、わざわざ中国の消費者の反発を買うのは避けたいところだろう。要するに、板挟みになりやすいのだ。

摩擦発生リスクを下げるには

どうすれば摩擦を避けつつ情報公開ができるだろう。まず、経済安保と過度に結びつけた広報を避けることだ。中国からの撤退については、中国での賃金高騰や円安の進行、ロックダウン(都市封鎖)による流通網の混乱など様々な要因が関係している。政治的理由ではなく経済合理性を前面に出すことで、ある程度は摩擦発生リスクを下げられるだろう。

ただ、今後はより対応が難しい広報案件が出てくる可能性が高い。政府がセキュリティー・クリアランス(適格性評価)の導入を検討しているからだ。米国が運用している制度で、国家機密に触れてもよい人物かどうか、資格を設けて制限する。組織内に情報のファイアウォール(防火壁)を設けるわけだ。

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