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実践!プレスリリース道場

中古シザーの新市場を創造、1万本突破キャンペーンのリリース

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。

実在の人物にフォーカスし、苦難の末に成功する物語を取り上げる構成で一世を風靡したのがNHKの『プロジェクトX 挑戦者たち』です。

新商品リリースに少しだけ載せた開発秘話を深掘りして記事にする記者は多くいます。それほど人の物語は強いのです。今回は自ら積極的に成功ストーリーを組み立て、メディアに提供しているリリースを紹介します。

プリマベーラは群馬県太田市に本社を置き、北関東を中心に店舗展開している総合リサイクル企業です。同社で2017年にスタートしたのが、理美容師が使う専用シザー(ハサミ)の中古買取・販売事業。かなりニッチな分野に参入した背景には、プロジェクトマネージャーを務める萩原隆介さんの元美容師という経歴がありました。

経験をもとに練った事業内容

私も初めて知りましたが、シザーは中古でも1本数万円から、最高級のものは30万円程度もするのだそう。個人で購入するため、新人の理美容師は月々のローン返済に追われる上、練習用マネキンの購入費なども含め経済的にかなり苦しいそうです。萩原さんも一人前になったものの、手荒れや経済面の問題から4年ほどで退職しました。

その経験から中古シザーの買取販売事業を思いつきます。実店舗では難しくてもネット通販なら見込みがあると、退職後4カ月ほど通販の勉強に励みました。その後、プリマベーラの求人を見つけてアルバイトとして入社。正社員になると満を持して中古シザー事業を提案し、実現に結びつけました。

反響は次第に大きくなり、競合店ができるなど新たな市場を生み出し、同部門の売り上げも5年間で累計1億円を突破したというから大したものです。2021年には埼玉県本庄市に実店舗も誕生し、現在は「Kittemi(キッテミー)」という事業名で呼ばれています。

広報課課長の亀井彬さんによれば、主な売り手は辞めた人を想定していましたが、実際はシザーをランクアップさせたいと買い替えに来る現役の人も多いそうです。「萩原によると、通常は理美容室ごとに取引のあるシザーメーカーが決まっていて、他社製品と比較する機会がないそうです。その点、実店舗では複数メーカーのシザーを手にして試し切りもできるので、夢中で長時間見ていかれるお客様もいます」。

多くの理美容師が憧れる人気ブランド「ナルトシザー」などの高級品も正価の35%程度で購入できるのは大きな魅力に違いありません。中古品とはいえ萩原さんが社内で手入れをし、必要なものは研ぎ師に出して整えるので品質も万全。新潟や栃木など、遠方からの来店者がいるのもうなずけます。ではリリースを見ていきましょう。

(ポイント1)まずレターヘッドが社名でなくブランド名の「Kittemi」であることに注目です。複数のブランドを有する時は、ブランド名を出す方が読み手に印象づけられます。リードに企業名が入っているので、「Kittemi」がプリマベーラの一事業だということも伝わります。私自身も横濱カレーミュージアムの責任者をしていた時は、運営元企業ではなくカレーミュージアムのレターヘッドで出すことで、名称が世の中に早く浸透しました。

ストーリーの説得力を高める

(ポイント2)累積販売数1万本突破を記念し、5000円以上のシザーを購入すると1000円割引くキャンペーンに付加する形で、成功ストーリーを発信しています。実は亀井さんは、この2カ月前にも成功ストーリーのリリースを配信しています。メディアの反響が大きいので、タイミングを見計らって配信を重ねているのです。人の...

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