3月の日野自動車の検査不正や、9月のパナソニックの無資格工事など、長年にわたって行われてきた「不正隠し」が目立った2022年。なぜそのようなことが起きてしまうのか、「企業風土」をキーワードに解説する。
相変わらず企業不祥事が止まらない。かつて目立った不正会計こそ、少なくとも大企業では収まりつつあるが、システム障害や検査データなどの不正を巡っては、新たな事案が毎年発生する。本稿では、不祥事がなぜなくならないのか、広報を含め企業の対応がなぜ後手に回るのかを論じる。その際、前者では企業風土、後者ではグループガバナンスの問題を取り上げる。最後に、もっぱら不祥事との兼ね合いで、広報の役割を述べる。
不祥事の「真因」となる企業風土
近年の企業不祥事の原因として、「企業風土」がよく取り上げられる。大企業で深刻な企業不祥事が起きた場合、第三者委員会が立ち上げられ、調査結果を報告書にまとめることが一般的になっているが、日本弁護士連合会のガイドラインでは調査対象となる事実のなかに企業風土が含まれており、これが、直接的な原因の背後にある「真因」と指摘されることが多い。この手法は、第三者委員会ではない社内調査などの報告書でも採用される。
有名な例では、東芝の不正会計で話題となった、「チャレンジ」と称する収益目標プレッシャーと上司の意向に逆らえない企業風土、製品データ改ざんを巡る神戸製鋼所の「『工場で起きている問題』について現場が声を上げられない、声を上げても仕方がない」という風土、品質不正が相次いで明らかとなった三菱電機における「言ったもの負け」の文化などがある。2022年には日野自動車でエンジン不正が問題となった。
日野自動車、エンジンの検査不正を公表、2003年から不正が常態化
日野自動車は3月、中大型車のディーゼルエンジンの燃費・排ガスのデータ不正を公表。不正は社内調査によって発覚した。8月2日に調査報告書を公表。2003年以降、継続的に不正が行われたことも明らかになった。さらに8月22日、国土交通省の立ち入り検査で小型トラック用エンジンの性能試験の不正が発覚。同社の国内向け車種のほとんどが販売不能となった。
日野自動車の不正に関する特別調査委員会報告書(同8月)では「上意下達の気風が強すぎる」「上にモノが言えない」と指摘され、委員長が記者会見でもこの点を強調していた。このように「不正を言い出せない企業風土」は、もはや不祥事を生む企業の代名詞ともなりつつある。たしかに「風通しが良い」企業では、不正が長期にわたって隠されたり、放置されたりすることは少ないであろう。
日野自動車の場合、約20年にわたってエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請において不正を行っていただけでなく、2016年に国土交通省から報告を求められた際には「そうした事案はない」との虚偽報告を行っていたこと、これらを公表した後の同省の立ち入り検査で追加の不正行為が判明したことなど、その悪質さは度を越えていると言わざるを得ない。
この間、同社は国土交通省から相次ぐ型式指定の取り消し処分や違反の是正命令を受け、国内向けトラックの出荷停止などから、今期の業績にも深刻な影響が生じている。騒がれた割にはレピュテーションの棄損以上の影響があまりない不祥事もある中で、日野自動車の場合、文字通り企業の存立が脅かされる事態ともなった。
企業風土はどう作られるか
ここで不正が絶えない真因とされる企業風土とは何かをおさらいしておこう。企業風土(いわゆる社風)とは、その企業固有の雰囲気なり社員の行動様式である。経営学の世界では、価値観や信念のように、より規範的なものを含め「企業文化」(Corporate Culture)と呼び、経営上意味のある概念として扱う。
海外の企業文化には、かつて一世を風靡した「HPウエイ」(ヒューレット・パッカード社の文化)やGoogleの企業文化のように、企業を成功に導く秘訣とされるものが多い。一方、最近わが国で社風が話題となるのは、前述のようにもっぱら不祥事との絡みであるのは残念である。
地理的な風土が、自然環境や人間の営みによって時間をかけて形成されるのと同じように、企業風土も、業務内容や営業区域、資本関係、人的要因(経営者の志向や社員の属性)などの様々な要因が積み重なってできるもの。企業としての経験、体験もそのひとつである。不祥事との関連では、多少の不正には目をつぶっても目の前の売上や顧客対応を優先した方がよいといった慣行も、そのひとつであろう。
日野自動車では、特別調査委員会報告書で、過去の成功体験を引きずり、「できない」ことや過去の過ちを認めることができない現象が発生していたとされた。全従業員へのアンケートでは、「お立ち台」と呼ばれる、開発スケジュールの遅れに対する管理部署への担当者による説明の場とその後の引責という、生々しい描写が出てくる。
しかし、過去の成功体験を引きずるという点は、多かれ少なかれ日本の大企業に共通する要素ではないだろうか。成功企業として歴史を積み重ねるうちに、いわゆる「大企業病」と呼ばれる...