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危機管理と広報対応

『隠蔽図る』姿勢が炎上激化の合図 迅速な事実確認と情報開示が鍵に

山口真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)

デジタルの発達とSNSの浸透により、何事も瞬く間に広がる昨今。組織の不祥事が明るみになった際に、さらなるイメージ悪化を食い止めるにはどのような対応が適切なのか。不祥事の隠蔽を図った3事例を紐解きながら、炎上発覚時の最適な対応を示していく。

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所の調査によると、2021年の炎上発生件数は1766件だった。一日あたり約5件発生しており、今日もどこかで誰かが燃えているのが炎上の現実なのである。

さて、2022年も大きな炎上が起こっているところだが、本稿で取り上げる3つの炎上は、いずれも「隠蔽しようとして炎上が激化した」という共通点がある。各特徴をレビューしよう。

船橋屋社長、恫喝動画が拡散

事件発覚後、船橋屋が出した謝罪コメント。

船橋屋社長、恫喝動画が拡散

社長(当時。以下、前社長)が、追突事故時に相手方を恫喝した動画が拡散され、辞任した。前社長側が火消しを図ったが、インフルエンサーが動画を再投稿し炎上。船橋屋は事実関係を認め謝罪した。

本件が批判の的となった背景には、インフルエンサーによって当該動画が取り上げられたことにある。老舗和菓子屋を運営するブランド力ある同社において、有名な社長(当時)だったことが話題を呼んだが、同時に、「火消しをしていたこと」が内部告発によって暴露され、炎上を激化させた。

この内部告発によると、前社長による恫喝動画の初出は炎上の2~3週間前であったが、当初は社内上層部で、マスコミ対応やSEO業者を雇っての火消しにあたっていた。また、前社長がパワハラを行っていたことも明らかにされている。これらの事実が、前述したインフルエンサーによって、告発DM(ダイレクトメッセージ)の画像付きで投稿され、大炎上に発展した。

隠蔽の事実が残る時代

本対応の問題点を挙げるならば、最初の動画が投稿された9月上旬の時点で火消しを行おうとしたことであろう。不祥事が出た際、隠蔽を図る企業は多い。しかしSNS時代では、隠そうとしても、内部告発等によって簡単に拡散されてしまう。さらに一度インターネット上に広まった情報を完全に消すことは不可能に近い。様々なユーザーが問題とされるコンテンツをコピーして再アップロードするケースがほとんどである。その結果、隠蔽しようとした事実だけが残るという、百害あって一利なしの対応となってしまう。

そのため、該当動画の投稿が判明した時点で、火消しではなく、事実確認を行うべきであったといえよう。そして恫喝が事実なのであれば、同社に明らかに非があるので、その時点で公表・謝罪をすべきであった。

社長交代後の良対応

ただし本件の対応には良かった点もあった。それは、交代後の現社長の事後対応である。評価されるのは、その「スピード感」「情報の透明性」「周囲に対する攻撃への防御」の3点である。

「スピード感」では、炎上が始まった9月26日の深夜、動画を見た社員から連絡を受けた現社長はすぐに広報担当と情報収集にあたり、当時の社長にも事実関係を確認した。そして1つ目のプレスリリースを公表したのが9月27日の夕方と、24時間以内に公式発表をしている。後述する第二報も9月28日の朝と、総じて対応が迅速だった。

「情報の透明性」としては、発覚後すぐに前社長に連絡して事実確認を行ったうえで、プレスリリースにて「事故並びに現場での対応は概ね事実」と認め、「弊社としても到底容認できるものではないと考えており」と立場を明確にし、「事故のお相手の方には深くお詫び申し上げます」と謝罪している。このプレスリリースについて、現社長は「内容には細心の注意も払っていた」と後日述べている。

「周囲に対する攻撃への防御」では、第二報として執行役員(現社長)の個人名義で、「無関係な企業と弊社従業員へのインターネット上の書き込みについて」というページを公開した。これは、従業員個人や無関係な企業への誹謗中傷が発生していたことに対応したものである。

ひとたび炎上が発生すると過剰な誹謗中傷が殺到することが多いが、問題には適切に対処しながらも、過剰な攻撃からは従業員などを守った姿勢が評価された。執行役員が個人名を出してのお願いの形を取ったことも、効果的だったと指摘されている。さらに、厳しい電話対応を強いられた社員には個人面談を行うなど、社内フォローも行われていたようだ。

以上の適切な対応によって、炎上後徐々にSNSには肯定的な声が増えた。また店頭への来店客も、従業員に応援の言葉をかけていたという。

秀岳館高、部員暴力動画が拡散

サッカー部コーチの部員暴行動画がSNSで拡散。その後、暴行を受けた部員らが“顔出し謝罪動画”で、「部内暴力は日常的」とする報道を否定した。監督はテレビ番組で「謝罪動画は部員が自発的に撮った」と主張したが、後に監督の指示で撮影されたことが判明した。

本件は典型的な炎上対応の失敗事例である。NGだったポイントとしては、①全体的な対応が遅かった、②未成年であり被害者である生徒を矢面に立たせた、③サッカー部監督がテレビ出演で虚偽の発表をした、④最終的に生徒のリテラシーへと問題をすり替えた、などが挙げられる。総じて...

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