企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。
今回のポイント | |
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①「人」を企業価値の中心に置く、人的資本経営時代へ | |
②「人的魅力」と「ESGファクト」をブランディングの軸に | |
③インパクトにこだわった「人」起点の情報発信設計を |
ステークホルダーへの情報開示の流れは近年ますます強まっている中、2022年は、経済産業省が推進する「人的資本経営」をはじめとした、企業の「人」の資産に対する再評価が進んでいます。「人的資本経営」とは、これまでは企業が人件費というコストとしてみていた「人」を、企業成長の源泉となる「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげようという経営の在り方です。
広報視点で見てみると、企業は、単なる「人」に関する情報開示を行うのではなく、経営戦略やパーパスなどと連動し、戦略性を持った情報発信が求められていると考えられます。
「人」が魅力ある企業のカギ
もとより、企業のブランディングにおいて、「人」を起点とした情報発信は重要なファクターの一つとなっています。2016年以降、企業広報戦略研究所で実施している「魅力度ブランディング調査」のデータでは、企業の魅力伝達の起点となる「人」「財務」「商品」の3つの中で、「人的魅力」の構成比が、過去7年間の調査結果いずれにおいても最も高いという結果となっています。
さらに細かくこのデータを見てみると、生活者に伝わっている企業の魅力トップ5項目のうち、4項目が人的魅力となっており(図1)、「人」が魅力ある企業のカギだと言えそうです。
「ESGファクト」発信の重要性
人的資本経営は、企業のガバナンスに大きく影響しています。そこで、ESG関連のデータを見てみると、当研究所による「ESGレピュテーション調査(2022年7月実施)」の結果では、一般生活者におけるESGの認知率は37.9%にまで高まりました(2021年6月実施の同調査では、33.1%)(図2)。
また年代別にみると、20代・30代において、特に認知率が高いことが分かります。このように既に3人に1人以上の生活者がESGを認知し、企業側からもESG起点での発信を自社サイトだけでなく統合報告書など様々な手法で行うようになった昨今の状況を考えると、ESGをファクトベースで発信する重要性はますます高まり、企業ブランディングにも大きな影響を与え始めていると推察されます。
また、同調査より、ESGの取り組みが伝わっている企業は、対象200社の平均値よりも「人的魅力」の構成比が高くなっているということがわかりました。これらを踏まえると、企業におけるESG活動の取り組みは、「人的資産」をもとにした企業ブランディング構築を容易にするのではないかと考えられます。
企業のESG活動の認知経路についてのデータでは、「テレビ番組」「テレビCM」「新聞記事」「企業ウェブサイト(コーポレート情報ページ)」「ウェブメディア」の順で認知したという結果が出ています。上位のうち、「テレビ番組」「新聞記事」「ウェブメディア」とEarnedメディアが多く、近年注目度が高まっているESG領域を取り込んだブランディングにおいては、具体的ファクトから理解を促すEarnedメディアの活用がとても重要になっていることがわかります。
「3つのP」で情報発信設計を
ESG起点の企業ブランディングに大事な「人」「メディア」の観点に加え、さらに効果的に企業の価値を発信していくためには、例えばNPO・NGOなどをはじめとした、社外の組織と連携する「パートナーシップ」が重要となります。外部の協力者とともに社会課題を解決に導く本質的な取り組みを企画し、ファクトをベースにした価値づくりを行っていくことが有効です。当研究所ではこのPeople(人)、Partnership(外部協力)、PESO(メディア)をESGブランディングに求められる「3つのP」と称しています(図3)。
企業の存在意義が広く知られるような社会的インパクトのあるファクトをどのように創発したのか、それはどんな成果なのかを、しっかりとEarnedメディアを活用して伝えていくことが重要です。
「自社は様々な結果を残しています」と声高に発信しても、なかなかメディアに取り上げられない、生活者に伝わらないという企業の声をよく聞きます。そのような場合、この「3つのP」の視点を広報戦略に取り入れてみてください。志のある「社員」が起点となり、社外の「協力者」を巻き込んで活動を育み、大きくし、その過程と成果を様々な「メディア」に取り上げられるように積極的に発信していく。そうした社会を巻き込む広い視点からのプロデュース力が、これからの広報部門には、より重要になると考えています。
CASE
社員の“主体性”が企業価値を高める
2021年5月から9か月間、留職プログラム※にて、“途上国から「食」の可能性を世界に”をミッションに掲げるマザーハウスで活動し、チョコレートの製造から販売に取り組みました。
留職で得られた最も大きな収穫は「食に関する事業で環境問題の解決に貢献したい」という、元々もっていた“想い”に気づくことができた点です。留職後は食品には加工できないスパイスを使ってギフトカードを作成する事業などにも取り組みました。留職を通じて、お客様に想いを伝え、どうすれば行動してもらえるかを考え、自らアクションを仕掛けていくことが大切だと気づきました。
今後は仕事を通じて社会課題に向き合いたいという想いが強まりましたし、主体的にキャリアを形成していくヒントをたくさん頂いたと感じています。