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記者の行動原理を読む広報術

社内報が醸成する共同体意識 同じニュースに触れ企業文化を共有する

松林 薫(ジャーナリスト)

組織にまつわる情報を共有するツールとして活用されている「社内報」。記者目線で見ると、「日常的に、同じニュースを目にし、共有している」こと自体に価値があるという。人手不足が進むにつれ、社内報の重要性は増している。

広報はマスコミ対応とともに、組織内への情報発信も担当していることが多い。冊子の形では制作していなくても、社内行事などに関する「お知らせ」を電子メールやイントラネットを通じて流しているという例もある。そうした広い意味での「社内報」を運営する際、どんなテーマや情報を取り上げればいいのだろう。

社内報が果たす役割

一般に社内報は、経営陣からの上意下達や業務に関する情報共有の道具だと捉えられている。もちろんそれは間違いではないのだが、もう一つ忘れてはいけない役割がある。共同体意識の醸成だ。

この点については、新聞やテレビと重なる部分がある。国家や地域社会といった共同体が維持される上で、マスメディアが果たしている役割は一般に考えられているよりずっと大きい。

例えば自分が愛国者だとは思っていない人でも、「日本社会の一員だ」という意識は持っているものだ。そうした共同体意識があればこそ、自分が納めた税金が赤の他人に使われることを何とか許容できるし、大災害などの際にも助け合える。近代国家が機能するには、そこに住む人々が「自分は◯◯国の一員で、同じ◯◯人とは仲間だ」というアイデンティティを持っている必要があるのだ。

言い換えれば、年齢や性別、住む町などを超えて「我々は同じ空気を吸い、同じ時代を生きている」という意識を育む必要がある。しかし本来、動物としての人間が自然に関係を維持できる人数は150前後(ダンバー数)だとされる。国籍が同じだからというだけで、顔を見たこともない人と協力し合うことは、必ずしも容易ではないのだ。

それを可能にしたのがマスメディアだった。日常的に他の人々と同じニュースに触れ、その社会の文化を共有する。それを繰り返すうちに自分が属する共同体への帰属意識や忠誠心(ロイヤルティ)が生まれ、その中にいる人同士であれば個人的な付き合いがなくても助け合えるようになる。15世紀にグーテンベルクが活版印刷機を発明したことでマスメディアが生まれ、封建社会が近代国家の成立に向けて変わり始めたのはこのためだ。

その意味で、ダンバー数を超える規模になってしまった組織を円滑に運営するには、共通のメディアが不可欠だ。家族やサークルであれば直接交わす言葉で十分だが、一定の規模を超えた企業では人工的にメディアを作る必要がある。その核が社内報なのだ。

そう考えると...

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