新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
私は多くの業種で広報支援に携わっていますが、特に住宅産業には精通しています。中でも広報が上手いと感じるのが大和ハウス工業です。
5年前にもプレミアムフライデーのリリースを紹介しましたが、かねがね基本の商品リリースを取り上げたいと思っていたので再登場となります。
今回のリリースは「メタバース住宅展示場」。最近、メディアでよく耳にする「メタバース」を用い、希望者はオンラインで仮想空間上の住宅展示場を自由に見学でき、アバターとなって担当者に質問もできるというものです。
前段として、同社では2019年からウェブ限定の戸建住宅商品「Lifegenic」を販売しており、現在までに1200棟の販売実績があります。「2018年頃からSNSが一層浸透し、ネット上で住宅メーカーを絞って検討する方が増え、展示場に足を運んでいただくハードルが高くなっていました。現場からもオンラインを強化したいという声が上がり、ウェブ限定販売に踏み切ったところ好評だった経緯があります」と話してくれたのは、広報企画部東京広報グループ主任の松木さやかさん。
住宅ほどの大きな買い物は、現物を見ずして買えないという固定観念がありますが、消費者の意識も変わってきているのでしょう。「強いこだわりを持つ方は増えていますが、これまでLifegenicで完成した住宅を見て『想像と違った』という声はありません。ライフスタイル診断の結果に基づいてお客様の志向に合った商品をご提案しますし、お客様も入念に下調べをして細かいところまで確認されるので、リアルな展示場での販売と同じくらいご満足いただけていると感じます」と松木さん。
人件費などのコストを抑えることで価格がリーズナブルになるメリットもあります。そうした中、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の蔓延によって展示場離れが加速しました。
少子高齢化による人口減少や原材料の高騰、住宅の耐用年数が長くなり建て替えの必要が少ないこと、そして「一生賃貸でいい」と考える若年世代の意識の変化などから、新築着工件数も減少傾向にあります。
競合メーカーもオンライン説明会やVRを用いるようになりますが、VRでは企業側がセールスポイントを伝えるだけで一方通行だという不満が買い手にも売り手にもありました。
業界初のメタバース案件
そこで同社のマーケティングチームと制作会社が手掛けたのがメタバース住宅展示場です。広報担当者にこの案件が伝わってきたのは、2022年初頭のこと。その時点ではまだ「メタバース」という言葉を使っていませんでしたが、松木さんたちが「これはメタバースに適合するのでは」と提案。社内で調べた結果、同業他社の取り組みが見当たらなかったため、「業界初のメタバース住宅展示場」としてリリースすることになりました。
では、そのリリースを見てみましょう。(ポイント1)まずタイトルで「メタバース」を前面に押し出し、受け取った記者の手を止めさせるインパクトを与えています。本来のメインタイトルは、「オンラインを活用した戸建住宅の販売を強化します」。上の2行はサブタイトルですが、あえてタイトル上に持ってくることで「メタバース」の単語が目に飛び込んできます。
メタバースのように、まだ多くの人が体験したことのないサービスは、画像選びも重要です。例えば「アバターとなって会話」と言われてもすぐにはピンときませんが、1枚目上段左の画像を見れば...