複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
問題の経緯
2022年9月21日
デイリー新潮は、9月21日に「ENEOS会長、電撃辞任の理由は“凄絶”性加害だった『胸を触り、キスを強要』被害女性は骨折」との記事を配信。9月22日発売の『週刊新潮』で詳報した。会長辞任を発表した8月当時は、一身上の都合とされていたことから注目を集めた。記事の中で、ENEOSホールディングス広報部は「(被害女性の)プライバシーに関わる恐れがある情報発信は厳に控えていた」とコメントしている。
9月21日、ENEOSホールディングスの杉森務元代表取締役会長が8月に代表取締役と取締役から辞任した理由が、性加害にあったことが報じられました。8月に俳優の香川照之が銀座のクラブで性加害を行っていたことが明らかになり、女性への性加害に対する世の中の関心が高まっている時期だっただけに、杉森氏の性加害報道も、日ごろよりも一層注目が集まりました。
今回は、この件を題材に、企業トップの不祥事についての危機管理広報を検討します。
報道で辞任理由が明らかに
杉森氏は8月12日に開催された取締役会でENEOSホールディングスと子会社ENEOSの代表取締役と取締役を辞任することを申し出、同日、ENEOSホールディングスは「一身上の都合による」辞任であることを開示しています。この時点では、特に世間の注目を集めることもありませんでした。
ところが、杉森氏による性加害が辞任理由であることをデイリー新潮が9月21日に配信したことで世間の関心が一気に高まりました。
そこで、同日、ENEOSホールディングスは、子会社ENEOSとの連名でリリースを出しました。
その内容は、被害者や関係者に対する謝罪の言葉を述べるとともに、「人権尊重、コンプライアンス徹底を経営の最優先事項と位置付けているにもかかわらず⋯元会長自らがこれに背く行為を行ったことは、極めて遺憾」とのENEOSホールディングスの姿勢・意思を明らかにするものでした。
こうした姿勢や意思を示すフレーズは、企業の内部統制が利いていることをアピールするという観点からも重要です。企業の経営方針やコンプライアンスに対する考えは形ばかりのお題目ではなく、それに反する言動をした役職員には、たとえそれが代表取締役会長であったとしても厳しい姿勢で臨む監視・監督体制が機能していると広報を通じてアピールすることができるからです。
ただ、「極めて遺憾」という表現は...