他社とのコラボレーションは、新たな化学反応を生み、企業の成長が期待できる。協業のきっかけは、広報担当者が記者を通じて得た情報ということもある。幅広い人脈を持つ記者から意見を聞けるような関係性を築くには?
筆者は日本経済新聞でのキャリアの半分を経済解説部という部署で過ごした。文字通り経済ニュースの解説記事を書くのが仕事だが、「担当業界」という意味では経済学界だった。
解説記事を書く際によく使った用語に「イノベーション」がある。ビジネスパーソンにはこのままでも通じるが、大学生の読者なども意識した記事では「イノベーション(技術革新)」と、カッコで日本語を補う。
ただし、この概念を提唱した経済学者、シュンペーターについての解説記事では「新結合」という訳を使うことが多い。革新とは無から有を創り出すことではなく、既存の製品や技術、組織などを結びつけることだからだ。シュンペーターは、経済成長の源泉はこの化学反応にあると考えた。今風の言葉で言えば「ビジネスマッチング」や「コラボレーション(コラボ)」がカギになる。
協業実現の裏に記者
経済取材の経験が長くなると、この新結合の発生に、記者が深く関わっていることに気付かされる。紙面で新しい技術や製品を紹介し、間接的にイノベーションを促すというだけではない。人と人、企業と企業の間を取り持ち、直接結びつける役割も果たしているのだ。ハチは植物の蜜を得るために花から花へと飛び回る過程で花粉を運び、意図せず遺伝的多様性を作り出す。記者もこれと同じで、ビジネスの媒介者になることが多いのだ。
この点については、報道倫理の観点からしばしば議論になる。例えば、私が日経に入社した時、研修中にテレビ東京が作成したドラマを見せられた。第一銀行と日本勧業銀行が合併し、第一勧業銀行(みずほ銀行の前身)が誕生した際の舞台裏を描いた再現ドラマだ。このドラマに登場する日経記者は、交渉過程を取材するだけでなく両行の主導権争いを仲裁しながら合併の実現を後押しする。見終わった後、同期との間で「記者は事件の当事者になっていいのか」と論争になったのを覚えている。
これはジャーナリズムにとって永遠のテーマだ。有名なところでは、ピューリツァー賞を獲得したケビン・カーターの報道写真「ハゲワシと少女」を巡る論争がある。餓死しかけた少女を近くで見つめるハゲワシを撮ったものだ。こうした場面で、ジャーナリストは目の前の現実に介入すべきなのか、それとも観察者に徹して淡々と伝えるべきなのか、という問題には今もすっきりした結論は出ていない。
倫理的な問題はさておき、現実の記者は取材を...