新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
「炭酸飲料を水筒に入れ、冷たくてシュワシュワのまま持ち歩きたい」というのは、人類の長年の夢といっても過言ではないでしょう。
私自身が思い浮かべるのはクラフトビールです。郊外で醸造しているところが多く、車で行くと運転手は飲めないというジレンマがあります。そんな時、炭酸用の水筒があればできたてを持ち帰れるのに⋯⋯そんな夢を実現してくれるのが、今年1月にタイガー魔法瓶が発売した「真空断熱炭酸ボトル」です。発売3カ月で出荷本数10万本を超えた大ヒット商品の達成リリースを取り上げたいと思います。
そもそもこの企画が持ち上がったのは、2019年冬のこと。同社では2023年に迎える創業100周年に向けて、新しいことにチャレンジしようという機運が全社的に高まっています。その中で挙がったのが真空断熱炭酸ボトルだったと、広報宣伝チーム真空断熱ボトル担当の玉矢賀子さんは話します。
ここ10年ほど、炭酸市場が右肩上がりなことも背景にありました。美容のために炭酸水を飲む人も増え、炭酸水をつくる家庭用マシンも人気を呼んでいます。それに加えてコロナ禍でリラックスしたい時に飲んだり、キャンプ人気の高まりから屋外で飲んだりと、飲用機会も増えています。
ただ、魔法瓶に炭酸飲料を入れると、炭酸ガスにより蓋やキャップが割れたり破裂したりする危険性があります。それを解決したのが同社の技術力。同社では炊飯器、ボトル、ケトル、回転機(ミキサーなど)、コーヒーメーカーの5つの主要カテゴリーの社員が1フロアに集中しています。破裂を防ぐ安全弁の技術は、IHジャー炊飯器の技術を応用し、「バブルロジック」という構造を開発しました。
また、ボトル部門では汚れや匂いがつきにくくするために内部の凸凹を減らす「スーパークリーンPlus」という技術を開発していましたが、これが炭酸を気化しにくくさせる可能性に気づいた開発担当者が自宅で実験をして実証。こうした既存技術にも支えられながら実現した真空断熱炭酸ボトルですが、開発には通常の倍の2年を費やしたといいます。
2022年1月11日に発売すると、SNSを中心に「こんな商品を待っていた」など予想以上の反響があり、多くの店舗で品薄となりました。工場で量産体制を整え、4月には販売店に迷惑がかからない体制が整ったことから、10万本達成リリースを配信しました。
言葉の言い換えを味方に
では、そのリリースを見てみましょう。まずタイトルに注目です。実は炭酸対応魔法瓶は、20年ほど前に他社から発売されたことがありました。そのため新発売時は「日本初」と謳えない代わりに「国内メーカー唯一」という表現を用いました。ところがそれから3カ月の間に他社からも後続製品が出たため「唯一」も使えなくなります。そこで出たのが「当社初」。この言葉には「約100年の歴史の中で初」という意味も盛り込んでいます。
(ポイント1)使いたいワードが使えない時に、どう言い換えたらプラスに働くか、特にタイトルは考えどころです。年間目標の出荷本数「10万本」を「3カ月」で達成など、インパクトのある数字も使えています。
また、玉矢さんは配信サイトから情報が拡散されることを考え、メインカットに力を入れているといいます。というのも、発売時にメインカットを掲載した媒体が多く、記者からの反響も大きかったことから決めたといいます。このように第2弾、3弾のリリースを出す際は、メディアの反応を...