シナジー効果が期待される M&A計画を公表する際のポイント
本田技研工業(Honda)、日産自動車(日産)、三菱自動車工業(三菱自)は2024年12月23日、3社連名で「3社協業形態の検討に関する覚書を締結」と題するリリースを開示・公表し、3社の社長が同席した記者会見を実施。Hondaと日産が2026年8月をめどに共同持株会社を設立する方法での経営統合に向けた協議を開始し、三菱自が2025年1月末をめどに参画の可能性について判断することを明らかにしました。
リスク広報最前線
複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
日本製鉄は東日本製鉄所君津地区の排水口から法定基準を超える有害物質を検出したにもかかわらず、千葉県に報告していなかったと発表。少なくとも3年前から続いていたことが判明した。6月、着色水の漏洩が発生し、近くの川で魚が大量に死んでいるのが見つかっていた。
日本製鉄は、8月18日、東日本製鉄所君津地区の排水口・排水溝に係る水質測定データを総点検したところ、不適切な取り扱いがあったことを明らかにしました。この結果を受けて、千葉県、木更津市、君津市、富津市は、25日に、日本製鉄に対して、改善指示を命じました。今回は、この件を題材に、企業の環境汚染やその後の対処に関わる危機管理広報のあり方を検証します。
日本製鉄は6月24日に君津地区から構外に着色水を流出させる事態を起こしたことを公表し、かつ、7月3日には君津地区の排水口にてシアンと全窒素が排水基準を超過していたことを公表しました。
着色水の流出は、6月18日に脱硫液の漏洩が発生したことがきっかけでした。19日、20日に複数の排水口から脱硫液を含んだ赤色の着色水が構外に流出したことが確認されると、日本製鉄は、行政に各々報告しています。23日には、排水口付近から取水したサンプルの水質分析の結果の一部が明らかになったのを受けて詳細を公表しました。
行政への報告と公表はいずれも的確かつ迅速なタイミングで行われたと言えるでしょう。特に水質分析の全部ではなく一部の結果が判明した時点で公表したことで、事案を隠す意図がないとの企業姿勢を示すことができました。企業の信頼回復という広報の目的が達成できています。7月3日の公表も同様です。
また、いずれのリリースにも共通していたのは、近隣住民の皆さまへのお詫びの言葉です。リード文で「近隣住民の皆さま、行政、その他関係者の皆さまにご心配とご迷惑をおかけすることになり」と謝罪の言葉を並べています。「近隣住民の皆さま」を先頭にしたことで、日本製鉄が一番に謝罪したい相手が近隣住民であるということを強調できています。
仮に、これが行政、その他の関係者、近隣住民の並び順であったら、近隣住民の中には誰の方向を向いて謝罪しているのか、近隣住民を軽んじるなら出ていけ、と憤る人も出てきたかもしれません。企業の社会的責任は、企業がこの世の中に存在することを許されている理由と理解することができます。排水で問題を起こしてしまった製鉄所が今後も存在することを近隣住民に許してもらえるように広報することは、企業の社会的責任を意識した広報と言っていいでしょう。