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データで読み解く企業ブランディングの未来

LGBTQ+と広報の役割

Supported by 電通PRコンサルティング

企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。

今回のポイント
① 他人事から自分事への意識改革を図る取り組み
② ダイバーシティ&インクルージョンの企業風土づくり
③ 行政と連携した取り組みも課題解決の得策に

LGBT元年といわれる2015年の渋谷区・世田谷区のパートナーシップ制度導入から約7年。その間、“多様性と調和”を掲げた「東京2020」は、ジェンダーや性的マイノリティについてのリアルな潮流を垣間見る機会となりました。関心が高まる一方で、この課題は当事者が直面する困難が見えにくい側面をもち、意識や感じ方に個人差があり、それは地域や勤め先によっても生じることが、厚生労働省の調査などから見て取れます。今回は職場でこのテーマにどう取り組むかを、広報視点を交えて考えます。

LGBTQ+の実態

昨年、電通ダイバーシティ・ラボが「11人に1人が性的マイノリティに該当する」という調査結果を発表しました。そのうちL・G・B・T以外の多様なセクシュアリティ「Q+」が半数近く存在し、また、「LGBT」という言葉の浸透率が8割に達したのに対して「Q+」の認知度は2割程度でした。

一方、ストレート層(異性愛者で、生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致すると答えた人)の意識調査では、知識はあるが当事者が身近にいないなど課題感を覚えるきっかけがなく他人事と感じている「知識ある他人事層」(34.1%)が最多で、課題意識が高く積極的にサポートする姿勢がある「アクティブサポーター層」(29.4%)を上回りました(図)

図 LGBTQ+に対するストレート層のクラスター分析

出典/電通ダイバーシティ・ラボ『LGBTQ+調査2020』2021年4月
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0408-010364.html

パートナーシップ制度を導入済みの自治体は200を超え、地域差があるとはいえ人口カバー率は全国で50%を超えています。しかし、厚生労働省が令和元年度「職場におけるダイバーシティ推進事業」の一環で実施した調査では、着手した契機は必ずしも自治体の施策への対応(2.5%)ではなく、社会的な認知度の高まりから判断した(67.8%)という企業の回答が顕著に多くなっています。

また、当事者からの求め(17.8%)という回答もありますが、職場におけるカミングアウトの割合(L・G・B=7.3%、T=15.8%)は低く、困りごとや要望は多岐にわたるものの、その声が一気に増しているとはいえません。

課題解決に向けた視点

国は職場において、❶方針の策定・周知や推進体制づくり、❷研修・周知啓発などによる理解の増進、❸相談体制の整備、❹採用・雇用管理における取り組み、❺福利厚生における取り組み、❻トランスジェンダーの社員が働きやすい環境の整備、❼支援ネットワークづくりを示唆しています。

2021年1月に子どもを含む様々な家族のカタチに応える全国初のパートナーシップ・ファミリーシップ制度を導入した兵庫県明石市は、これに係わる市民サービスの整備や医療機関との連携協定の締結などとともに、企業に先鞭(べん)をつける形で、自らの職場つまりこの制度を利用する市職員に対して休暇や福利厚生を適用することをいち早く決定しました。

そして、啓発活動のベースに位置づけているのがSOGIEの理解浸透です。SOGIEは性的指向×性自認×性表現で誰もが持つ性のあり方を表し、それらは本人の意思で選択したり変えたりするものでも、矯正したり治療したりするものでもなく、各要素の多様な組み合わせのもとではすべての人が当事者であるという考え方です。

*Sexual Orientation(性的指向)、Gender Identity(性自認)、Gender Expression(性表現)

同市は自身や他人のSOGIEを理解・尊重できる人を独自に「ソジトモ」と定義し、学校や地域団体、民間事業者における研修や出前講座に専門職員を講師として派遣するなど、“ありのままがあたりまえ”という意識の輪を広げています。

さらに押さえておきたい点は、明石市はLGBTQ+に向き合う以前から「すべての人にやさしいまち」を基本方針に掲げたダイバーシティ&インクルージョンの風土づくりを、首長発信で着々と進めてきたことです。

“すべての施策は少数者への支援ではなく、まちづくりの一環として皆でその生きづらさを解消する取り組み”とし、本年4月、全国に先がけて施行したインクルーシブ条例は、人権やジェンダー平等など、偏見や差別、無関心に起因する様々な不合理を総合的に解決していく基軸となるものです。マイノリティにもマジョリティにもやさしいまちというのはSOGIEの概念そのものといえます。

これは企業でも同様で、LGBTQ+への取り組みは、まず、その基礎にあるインクルーシブな風土がいかに社内に根付いているかに目を向ける必要があります。経営トップの理解や先導は当然ですが、経営者とは違う目線で職場を俯瞰し、示したい企業姿勢と体制や環境などの実態とのギャップをチェックすることも広報担当に期待される役割です。

そして、冒頭の意識調査であげた「知識ある他人事層」を、いかに積極的なサポーターへと導くことができるかが重要なミッションになります。その一つとして行政との連携などによる社会への意思表示が、企業価値の向上と社内啓発の両面で効果的であることも念頭におくとよいでしょう。

電通PRコンサルティング
エグゼクティブ・チーフ・コンサルタント
南部哲宏(なんぶ・てつひろ)

プランニング&コンサルティング局、経営推進局を経て、2018年10月から明石市政策局シティセールス推進室にシティディレクターとして在勤中。

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

CASE

LGBTQ+フレンドリーを“見える化”し企業価値を向上

マクドナルド店舗でトレイに啓発チラシをセット(左)、明石駅前ビルのレインボー階段(右)。

明石市はパートナーシップ・ファミリーシップ制度の開始に合わせて、地域や企業と連携してこのテーマに継続的に取り組む機運を高めるために、「LGBTQ+フレンドリープロジェクト」をスタートさせました。第一弾の啓発キャンペーンでは明石駅前エリアを中心に、性の多様性のシンボルである6色レインボーの階段装飾や、巨大フラッグの掲示などを展開。商業施設や商店街、企業からも協力を得て、虹色のキャンペーンポスターの掲出などで街中の空気づくりを図りました。

また、マクドナルド店舗ではトレイに啓発チラシをセットしてもらいました。市が推進する“LGBTQ+にもやさしいまちづくり”に積極的に参加している姿勢が利用客に伝わり、企業価値の向上にもつながったのではないでしょうか。現在、本市は働く上でのLGBTQ+の課題解決をさらに推し進めることを盛り込んだ企業向けの登録制度を検討しており、社内・社外の両輪で推進してもらう契機になることを目指しています。

明石市政策局
ジェンダー平等推進室
LGBTQ+/SOGIE施策担当
増原裕子氏

明石市が全国に募集した専門職員として2020年4月に採用。著書に『ダイバーシティ経営とLGBT対応』など。

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