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記者の行動原理を読む広報術

役所はもっと「現場」の発信を 政策実行の様子を記者に見てもらう

松林 薫(ジャーナリスト)

日々忙しくネタを追いかけている記者にとって、大臣や首長の発言、新しい制度への関心度は高い。では、政策を実現している現場の空気を、記者に感じてもらえるような場を広報は設けているだろうか。記者と関係構築し、正しく情報を伝えていくために広報ができることとは。

筆者は日本経済新聞の記者時代、厚生労働省や金融庁など複数の役所の記者クラブを経験した。経済解説部という雑多なニュースを追いかける部署が長かったので、記者クラブに所属していない役所についても中央官庁から自治体まで幅広く取材した。最近、そうした経験に照らして危惧していることがある。かつては考えられなかったような統計に関するミスが目につくのだ。

公務員が減りすぎた

厚労省クラブの経験者として衝撃的だったのは、5月に持ち上がった新型コロナのワクチン接種をめぐる統計の修正騒動だ。新規陽性者のうち、実際にはワクチンを打っている人の一部を「未接種」に分類していたのだ。その結果、ワクチンの予防効果が高めに算出された。政府はこのデータを根拠にワクチン接種を推奨していたが、修正後に再計算すると、実際の予防効果はずっと低かった。

もちろん、こうしたミスが過去になかったわけではない。筆者自身、厚労省クラブにいた2007年、公的年金の納付記録漏れが大量に生じている問題をスクープした。いわゆる「消えた年金」騒動だ。しかし、そうした経験からしても、最近の統計のミスは多すぎる。

これは構造的な問題だと考えた方がいいだろう。知り合いの記者や官僚と話していて感じるのは、役所が人員削減を進めた結果、ルーチンワークの一部が回らなくなっているという現実だ。就職先としての人気が低下して以前ほど人材が集まらなくなった問題や、非正規雇用の職員を増やした結果、ノウハウなどの引き継ぎがうまくいかなくなった問題なども影響しているだろう。

自身の反省も込めて言えば、そうなってしまった背景には間違いなくマスメディアによる過度な公務員叩きがある。1990年代以降、「大きな政府から小さな政府へ」という掛け声のもと、新聞やテレビは役所にリストラを迫ってきた。旧大蔵省の接待汚職事件などもあり、そうした報道姿勢が市民から支持された面もある。しかし、人を減らすにしても、どこかに適正水準があるはずだ。気づかないうちに限界を超えて公務員減らしが進んでしまったのではないか。

しかし、そうした実態は外から見えにくい。最近、公立学校の教員については人手不足や過酷な勤務形態が報じられ、社会で危機意識が共有されつつある。本当は中央官庁や自治体でも同じ問題を抱える職場が増えているはずだが、今も1990年代の...

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