複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
問題の経緯
2022年6月9日
消費者庁は、あきんどスシローに対し、2021年9月から12月にかけて実施したキャンペーンにおける広告表示に関して、景品表示法に違反するとして、措置命令を行った。例えば期間限定の「うに」キャンペーンについて、すぐ品切れとなり9割以上の店舗で一時提供を取りやめていたにもかかわらず、宣伝を続け、苦情が相次いでいた。
消費者庁は6月9日、回転寿司チェーン店のあきんどスシロー(以下、スシロー)が2021年9月から12月にかけて「世界のうまいもん祭」「匠の一皿 独創/とやま鮨し人考案 新物うに・鮨し人流3種盛り」「冬の大感謝祭 冬のうまいもん」と称して実施したキャンペーンの広告での表示について、おとり広告であることを理由に措置命令を行いました。
メディアでも繰り返し報じられ、SNSでの反響も大きく、非常に注目されました。
そこで、今回は、このケースを題材として危機管理広報のポイントと、おとり広告とは何かといった基本的なポイントを解説します。
原因と再発防止策が嚙み合っているか
スシローは、措置命令を受けた当日の6月9日、お詫びするリリースを自社サイトに掲載しました。消費者に対する謝罪、消費者庁による措置命令の要約、原因、及び対策にひととおり言及したもので、形式的には整っていました。しかし、内容をよく見ると、原因と対策が嚙み合っていない印象を受けました。
リリースには、販売数量を予測した在庫が早期に不足することが予見されたことのほか、店頭では「一日数量限定」「商品の入荷待ち」などの告知はしていたがホームページや店頭での表示を停止しないなどお客さまへの告知が不十分だったこと、またキャンペーンの表示を停止する運用が徹底されていなかったことなどが原因として挙げられていました。
その一方で、対策は「消費者庁と調整のもと、広告表現の見直しや景品表示法に関する研修などを実施」とだけしか記載されていませんでした。「運用」に原因があると説明したのですから、スシローが再発防止のために講じるべき策は「運用」の改善です。例えば、在庫不足が見込まれた段階で、店舗からサイト運用担当者に情報が速やかに提供されるようにすることと、サイトや店頭での広告をただちに停止するといったオペレーションの改善策を提示しなければ、原因を踏まえた改善策とは言えません。
危機管理広報の際に事実や原因を公表するのは、再発防止策に役立てるためです。危機の原因が判明しているときには、その原因を...