メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は追手門学院大学の増井啓太ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2019年 |
学生数 | 3年生16人、4年生17人 |
OB/OGの主な就職先 | かんぽ生命保険、リコージャパン、ダスキン、ベストブライダル、大阪府警察本部 など |
1966年に開学した追手門学院大学。その開学時から続いているのが心理学教育だ。心理学部では、理論から臨床まで幅広いカリキュラムを設けている。心理学科の領域は、社会・犯罪心理学、認知・脳神経科学、発達・教育心理学、臨床心理学の4コース。大学院と合わせて公認心理師をはじめ専門的な資格が取得できるのが特徴だ。
孤独が他者への攻撃を助長していた
心理学科で、犯罪心理学や社会心理学を研究しているのが増井啓太ゼミ。研究の題材としているのは、身近にある出来事だ。
例えば、「他人を傷つける人」の背景にある心理特性。犯罪を抑止するための情報提示のしかた。恋愛や対人関係におけるトラブルやその解決方法。リーダーシップに関する研究など。中でも、インターネットやSNSに関わる心理特性の研究は、ゼミにおける中心的なテーマになっている。
そのひとつが、インターネット上で他者を攻撃し困らせる、「ネット荒らし」を行いやすい人の心理特性についての研究だ。その考察によると、他者への共感度合いが低く、自己中心的で、「自分の目的のために他者を利用しやすい」人がネット荒らしを行いやすいという特性が明らかになった。さらに、「孤独」が強くなると、よりネット荒らしに走る傾向があることも分かったという。
「ゼミ生には、自ら問題を設定し、その解決策を考えていく姿勢を学んでほしいと考えています。そのため、研究テーマからそれに関するリサーチクエスチョンや仮説についても、学生自身で考えてもらうようにしています。研究に対して主体的に、真摯に取り組んでいる学生に対して、こちらも精一杯のサポートをしています。研究を通じて、ひとつのことを一定期間やり続ける姿勢や最後まで諦めない精神力、忍耐力を身につけてほしいと願っています」と増井啓太准教授は話す。
マスク、魅力を高めるのは何色?
コロナ禍における出来事も、ゼミでの研究に影響を与えている。
例えば2020年2月末頃、「トイレットペーパーが店頭からなくなる」とのデマツイートが世間をにぎわせた。そして、実際に品薄になる騒動が起きた。これを機に、増井ゼミでは「SNSでデマ情報を拡散しやすい人」の心理を調査している。
その結果、「将来の不確実さ」や「結果の予測できない状況」を脅威と知覚し、過剰に不安を感じやすい特性がある人ほど、デマ情報を拡散しやすいことを見出した。
また別の研究では、長引くコロナ禍ですっかり必須アイテムとなったマスクに着目している。マスク売り場では昨今、白、グレー、ベージュ、黒、といった多様な色のマスクが販売されるようになっているが、「マスクの色が人の魅力にどう影響を及ぼすのか」をテーマにデータの収集を行った。その分析の結果、モデルの外見的な魅力にかかわらず、「白」マスクの着用が、魅力を高めることが明らかになったという。
「コロナ禍という大きな社会問題の中で確立された新しい生活スタイルをテーマに、実証的なデータを示したことは大きな意義があると思います」と増井氏は振り返る。
仮説に沿ってアンケート調査を企画し、実施するなど、授業以外で行う取り組みが多い増井ゼミ。ゼミ生同士での積極的なコミュニケーションは欠かせないという。
「研究はひとりで成し遂げられるものではありません。調査や実験の協力者に対する感謝の気持ちや、他のゼミ生を思いやる気持ちを大切にできるような学生に育ってほしいと思っています」。
人の心のダークな側面、その特徴や抑制を研究
心理学部心理学科で教鞭を執る増井啓太准教授は、犯罪心理学・社会心理学を専門領域としている。
「人の心のダークな側面の解明に興味があり、ダークな特徴を強く示す人たちの問題行動の特性やそれらを抑制する方法などに関心があります」と増井准教授。犯罪者の心理、特に再犯する人の心理が知りたいと思ったのが、心理学の研究へ進んだきっかけだと話す。
「勉強を進めていく中で、罪悪感が低く、罰から学習することに困難を示す人たちの心理特性として、サイコパシーやDark Triad(ダークトライアド/他者に苦痛を与えるパーソナリティ特性)があることを知り、さらなる興味を持ちました」。
近年は、「ネット荒らし」や「ネットいじめ」といった、インターネットトラブルの生起メカニズムやそのことが被害者に及ぼす影響についての研究を進めている。