企業のサテライトオフィスを誘致してきた神山町。同町にオフィスを構えるSansan寺田社長が「この地で起業家育成を」と発案し高専新設プロジェクトが進む。文科省の認可前からメディア、地域住民、中学生、保護者、教員、企業らの関心を集める広報活動とは。
起業家が、起業家を育てる学校を里山につくる。高専の新設は約20年ぶり──。その新奇性から注目を浴びているのが神山まるごと高専(仮称)だ。2023年4月に徳島県神山町での開校を目指す。編集部が取材した8月中旬時点では文科省へ認可申請中だ。(編集部追記:8月31日、神山まるごと高専の審査判定 可と発表)
15歳から20歳までの5年間、「テクノロジー×デザイン×起業家精神」を身に付ける学校で、学校名の「まるごと」には、神山町をフィールドに、あらゆることを学ぶという意味が込められている。
神山にスタンフォードを
学校づくりの発案者は、営業DXサービスの企画・販売を行うSansan(本社・東京)の創業社長 寺田親弘氏だ。神山町と言えば、IT企業のサテライトオフィスを誘致してきた地方創生の成功例として知られる。そのサテライトオフィスを2010年に初めて神山町に設置したのがSansanだ。
もともと社会貢献に関心を寄せていた寺田氏。神山町でまちづくりを推進してきたNPO法人グリーンバレーを立ち上げた大南信也氏らと共に、起業家を育成する教育施設を神山町でつくれないかと試行錯誤が始まった。2018年のことだ。
寺田氏は、のちに様々なメディアのインタビューに答え、高専の構想について発信しているが、そこでは「神山町から未来のシリコンバレーを生み出す」「高専を神山におけるスタンフォードにしたい」といったキャッチーなビジョンを語り印象づけている。
折込チラシを始めた理由
2019年6月、神山町で高専設立の準備を始めたことについて記者発表会を開いた。そこには、徳島県の地元メディアに加え、全国紙やウェブニュースメディアも集まった。
「各メディアの関心領域は“起業家がつくる学校”や“地域創生”など様々でしたので、その切り口に応じてファクトを集め、例えば日本は起業率が低いことを提示しながらブリーフィングを行いました」。
こう話すのは、神山まるごと高専の広報活動を担う小池亮介氏。Sansanの元広報担当者でもある。
記者会見後、小池氏は、メディアからの反響に手応えを感じる一方でBtoB企業の広報と大きく異なっていたのは、地元住民からの反応だったと述懐する。「神山町に住む皆さんは、メディアを通じて初めて学校新設を知った方が多くいました。会見に先がけて説明会を行うといった多面的なアクションがなかったため、“何が起ころうとしているのか、情報不足で不安”という声が上がっていることが分かりました」。
この教訓をもとに、発行を始めたのが、住民向けの「神山まるごと高専新聞」だ。県内シェア1位の徳島新聞に折込チラシとして入れているもので、学校周辺地域をターゲティングし配布する。「中学生が高専の授業を体験するサマースクールを神山町で開催」といったニュースや、プロジェクトにかかわる人をイラストで紹介するなど、開校に向けた準備の様子を地域住民にシェアする貴重な媒体となっている。
ほかにも、オンラインで神山まるごと高専に関する紹介を行う、町民説明会を役場と共に開くなどしている。
未完成な状態に共感
神山まるごと高専のクリエイティブディレクターには、CRAZY WEDDING創業者の山川咲氏が就任した。山川氏が加わって以降、開校準備の様子をドキュメンタリービデオ用に撮影するなど、コンテンツの発信を強化。認知拡大に向けた取り組みを始めている。2021年1月頃からだ。
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