政策づくりに欠かせない「住民の声」。より良い住民理解の作法とは。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。
世論調査、都政モニター、「町長への手紙」など。自治体の多くは、住民の声の収集に力を注ぎ、それを政策に反映させています。これは戦略的広報を支える重要な取り組みです。しかし、「住民の声」と言っても、その声は様々。声の集め方、まとめ方、活かし方は簡単ではないでしょう。
「水道料金を値上げしてでも、老朽施設を更新すべきですか」。
これは沼津市が行った住民対象の水道事業に関するアンケート調査の設問です*1。「値上げせずに可能な範囲で実施」との回答が60.6%。「値上げしても実施」が32.3%でした。また「水道施設の耐震化」についても「値上げせずに可能な範囲で実施」が62.0%で「値上げしても実施」が30.6%となりました。今自分たちが安全でおいしい水を利用するという短期的な利益を追求するなら、「値上げなし」が合理的です。しかし、将来の利益も考えるならそうはいかないでしょう。
*1 沼津市. 水道事業に関する意識アンケート調査結果について https://www.city.numazu.shizuoka.jp/kurashi/sumai/suido/oshirase/questioner_h26.pdf
このように社会の持続可能性を脅かす問題は山積しています。今この場にはいない、「声」をあげたいはずの将来世代の声はどのように聴いたらよいのでしょう。
未来人の声を聴く
近年、「フューチャー・デザイン」という手法に基づいて、将来世代になりきった住民に政策づくりに参加してもらう試みが自治体で広がっています*2。
*2 西條辰義・宮田晃碩・松葉類(2021). フューチャー・デザインと哲学:世代を超えた対話 勁草書房