「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
商品PRでも企業姿勢が重要に
ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(管理体制)」の3語からなる略語だ。2008年のリーマンショック以降、投資家は企業の長期的な存続を評価する指標として注目し始めた。
大量消費社会においての商品PRでは、時にインパクト重視の手法で消費者の商品購入を「煽る」傾向があった。しかし、近年では脱プラスチック化やカーボン・ニュートラルといった環境問題や労働者の待遇改善、ダイバーシティ推進など、商品PRにおいても企業姿勢が重視されるようになり、ESG経営の視点から企業ブランドを背負った手法が望まれている。今回は、こうしたESG経営の視点からの商品PRの企画立案の方法について考えたい。
視点1
「風下」から「風上」へ
与件整理の考え方
まず、前提として商品PRの企画書を作成する上での基本的な構成から整理したい。必ずしも全ての項目が必要なわけではなく、順番もこの限りではないが、一般的な企画書は以下の構成となる(図1)。
●与件整理(企画立案の背景、前提、狙い)
●目的と課題設定(実施により実現させたい具体的な目標、期待する効果)
●ターゲット(メディアまたはメディアを通じて伝えたい対象者)
●コンセプト(ブランド整合性、訴求イメージ、コミュニケーション手法)
●実施内容(5W1H)
●実施体制(体制図)
●実施予算(予算)
●想定される<誘致・掲載>メディア
●評価方法(定性評価、定量評価)
●プロジェクトの運用方法(担当者の職務分掌、PR会社・イベント会社への委託内容、社内各部署への依頼内容の詳細)
ここで注意したいのは、冒頭の「与件整理」だ。特にPR部門が商品自体の企画・開発にどの程度関係しているかが重要である。私はこれを「風上(または川上)」「風下(川下)」と便宜上呼んでいる。
例えば、いわゆるBtoB商材(生産財)の企画・開発にPR部門が初期の段階から関与することは少なく、風上における関与は一般的には小さい。従って、商品PRの企画書の作成といっても、すでに商品(製品)自体のコンセプトや仕様はすでに所与のものとされているのが普通である。PR部門の役割は「すでに決まった商品(製品)」をいかに「多くの人に知ってもらうか」ということに限られてきたのが、これまでだった。中には残念なことに、BtoB商材(生産財)の場合は「商品(製品)PRは必要ない」とされていたケースもある。
一方でBtoC商材(消費財)については、一般ユーザーやメディアに近い立ち位置にいるPR部門が比較的早い段階から商品企画・開発に関与することもあり、風上における関与は比較的大きい。例えば、潜在顧客へのモニタリング(定性)調査の段階からPR部門がプロダクト・マーケティング担当者と共に参画したり、商品仕様・パッケージデザイン・流通方法に関与することがある。またPR部門が主体となって商品名を公募するキャンペーンを展開するなど、開発部門との距離は近いとされる(図2)。
BtoB商材(生産財)
社内の開発部門・技術部門中心
➡風上においてPR部門の関与は少ない
生活者やメディア視点よりも、大口顧客・製品の直接の利用者の視点を重視
BtoC商材(消費財)
マーケティング部門中心
➡風上においてPR部門の関与する可能性が大きい
生活者やメディア視点が、商品企画・開発において特に重要
風上領域において、商品(製品)スペックや、いわゆるマーケティングの4Pがすでに決定された状態から商品PR戦略の立案を行うのに比して、PR部門が企画・開発の初期段階から風下領域のインサイトをインプットできる状態であれば、ESG経営に対する社会(投資家、生活者、メディア関係者)からの要請を商品(PR)に反映させやすくなる。
かつてのように風下領域から商品PRに関わっていくのではなく、可能な限り風上の領域から商品(製品)の企画に参画し、社会からの要請を商品企画自体に取り入れていくことが、広報部門が主体となってESG経営を実践し、商品PR活動を見直していく上で欠かせないのだ。
視点2
大量消費型社会の商品PR
クチコミを広げる情報設計
では、そもそも大量消費型社会における商品PRにはどういった問題があったのかを改めて整理してみたい。
ここでは、すでに商品スペックが決定済みの商品について、広報部門がマーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)の内、Promotionの一環として商品PR(マーケティングPR)を実践するものと仮定する。
この時、広報部門ではこの商品自体がどのくらいの「パブネタ」(メディアが話題を取り上げるかどうか判断する際の決め手となるニュース・ネタとしての力)を期待できるのかを想定する。この「パブネタ」が強いものであれば、この話題はニュースとして拡散されやすいことになる。一方で、あまり企業イメージや商品ブランドとはかけ離れた「パブネタ」を「話題づくり」のためだけに用意してしまうと、大きな話題になったにもかかわらず、結果的に商品ブランドを毀損してしまい、販売増にはつながらないこともある。
一方で、広報部門では、この「パブネタ」を、オウンドメディアなどを通じて、自らコントロール可能な媒体を活用した情報拡散のためのメディア設計(デザイン)を行う。この際に「パブネタ」が強ければ、パブリシティとしての自然拡散が望まれ多くの露出が期待できるが、逆に「パブネタ」が弱い場合には、「拡散」を補う目的でのペイドメディアの活用(広告)を準備しておかないと、期待していた浸透率(パブネタの認知)は実現しないことになる。
「パブネタ」の強さと、「拡散」のためのメディア設計(デザイン)の相乗効果が、結果として、社会全体に商品の「クチコミ」として広がっていく(図3)。
この「クチコミ」は企業側でコントロールするものではない。仮にクチコミの内容をコントロールしようとしたり、コメントや発言内容を管理しようとしたりすると、それは「ヤラセ」「サクラ」など、いわゆる「ステルスマーケティング」の類となって炎上にもつながってしまう。
ただし、「クチコミの場」を設けることは可能だ。オンライン上のコミュニティや掲示板によるレビューの可視化、またリアルの場ではファンの集いのような懇親会をはじめ、インフルエンサーなどが集まる場への商品提供などにより、クチコミを醸成するための機運を高める(場の提供)ことができる。例えば、オンライン掲示板やブログのコメント欄、その他オウンドメディアの活用の一環としてSNSアカウントを開設する企業が増えるにつれて、商品PRにおいても積極的にオンライン上でのクチコミ施策が展開されるようになった。
旧来型の商品PRの問題点
一方で、大量消費社会においては、市場拡大に応じて積極的な新商品の開発・製造・販売が展開された。技術的な革新による新商品も多く登場したが、さらに定期的なモデルチェンジが頻繁に行われる。このため商品PR担当は、インパクトの強い「パブネタ」を次々と拡散させるためのノウハウを求められ、いわゆる「客寄せ(メディア集め)」のための「パブネタ」の準備に苦心する結果となった。
商品PR担当者が「パブネタ」としての強さを求めることは、昔も今も大きく変わりないが、この強さの「質」が大量消費社会の時代が終わったことで徐々に変わってきているのが現状だ。具体的には「商品特性の訴求」「他社との差別化」から「社会課題の解決」「ライフスタイルの提案」へと「パブネタ」の訴求ポイントが移行しつつある(図4)。