巧みで効果的な広報テクニック。「巧報」や「効報」の実践に落とし穴はないか。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。
感情を揺さぶるコミュニケーション。その「やり過ぎ」はしばしば副作用をもたらします。
例えば、2013年に神戸市は放置自転車対策として「にらむ目」の看板を設置。監視を連想させるこの看板は放置自転車削減に大きな効果をあげましたが、看板を見た子どもが「怖い」と泣くといった苦情が寄せられたり、洗練されたイメージをもつ神戸の景観にふさわしくないといった批判を招いたりしました*1。恐怖や不安に訴える働きかけは、その空間の利用者に心理的な負担を強いたり、当該空間が醸成したいイメージや雰囲気を損ねてしまうことがあります。
*1 SankeiBiz (2013). “目力看板”神戸で議論呼ぶ 放置自転車激減、効果抜群も「子供泣く」(2013.12.21). https://www.sankeibiz.jp/econome/news/131221/ecc1312211838004-n1.htm
歩きスマホ対策も同様な問題を抱えています。歩きスマホ防止の啓発活動は、歩きスマホの危険性を訴えるものや、「ぶつかってきたのは、あなた。何も言わずに立ち去るのも、あなた。」など、歩きスマホ者に対する反感をかきたてるものが主流です。「にらむ目」の看板と同じく、歩行者に不快な思いをさせたり、施設のイメージを損ねたりするかもしれません。
そもそも、恐怖や嫌悪をあおる歩きスマホ対策は「効果がありそう」とアンケートで回答されることはありますが、現実の歩きスマホ抑止に成功した事例はありません。そこで筆者らは、ネガティブな感情に訴えることなく、歩きスマホを抑止するナッジを...