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広報担当者のための企画書のつくり方入門

企業の独自性をどう打ち出すか?広報の企画書の書き方

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

自社の強みを活かした広報

経営者や広報担当の方たちと話をしていると、「もっと自社の独自性をアピールできる広報をしたい」というお悩みの声を聞くことがある。しかし、この「独自性(オリジナリティ)を打ち出す」ということは、一見簡単なようで実に難しい。今回はコーポレートPR(企業広報)の企画書について、特に「独自性の打ち出し方」にフォーカスして考える。企業USP(Unique Selling Proposition)をどこに見出し、どのように訴求していけばよいか。PESOモデルの活用もふまえ見ていこう。

視点1
自社の強みを明確にする

そもそも「独自性」とは何か?

まず「独自性(オリジナリティ)」という言葉の意味について整理したい。注意したいのは、単なる「特徴(キャラクター)」と「独自性(オリジナリティ)」との違いだ。分かりやすく説明するために、図1で「筆者(例)」を題材に説明しよう。

図1「特徴」と「独自性」の違い
〈筆者を例とした場合〉

特徴

●PRプロデューサー

●いつも黒系の服を着ている

●メガネをかけている

●大学で教鞭を執っている

●かなり早口

独自性

●マスメディアとネットメディア/SNSの双方に携わっている

●広報と広告と双方に携わっている

●メディア/外資企業/NPO/大学広報の全てに携わっている

●エンタメや医療分野の広報実務経験がある

「独自性」に関する話をすると、多くの場合、「特徴」と「独自性」を混同している。私がいつも黒い服を着ていたり、メガネをかけて早口で話したりすることは、確かに私を他者と差別化する効果はあるかもしれないが、そこに「新しさ」「顧客利益」「自社の利益」などは含まれない。あくまで「差異」ではあっても「優位性」にはあたらないため、新たな「価値」を生むわけではない。

企業PRを考える上では、自社の単なる「特徴」と「独自性」を整理することが重要だ。その際に、図2の3つの視点から分けて考えると整理しやすい。どんなに奇抜だったり、珍しいものであったりしても、単なる他社との「差異」に過ぎなければ、それを「独自性」とは呼ばない。「独自性」とはこれらの3つの視点から「新たな価値」を生み出す源泉である。

図2 独自性を見つける3つの視点

自社の独自性とはどういうものか?

次に自社の独自性について、もう少し具体的に考えていきたい。自社の「独自性」を広報活動によって広く訴求していくためには、企画書上で自社にとっての「独自性」とは何かを明確に言葉で表現する必要がある。図2の3つの視点を用いて「自社の独自性とは何か」について企画書内で具体的に検討していく。

自社の独自性を把握するために、まずは「特徴」について、企画書作成前にいくつも挙げてみるのは有効な方法だ。アイデアレベルでの“数”は多いに越したことはない。いくつか「特徴」についてリストアップできたところで、図2の3つの視点を当てはめて考えていく。これにより、「特徴」から「独自性」へとブラッシュアップできることが多い(図3)

図3 自社の独自性の考え方(一例)
〈自動車部品製造会社の場合〉

特徴

●創業以来60年間にわたり自動車の部品製造一筋

➡伝統と顧客からの信頼

●世界中のあらゆる国で製品が使用されている

➡広い業界シェア

●研究開発に力を入れている

➡他社にはない特許や技術

●個性的な社員が多い

➡多様なクライアントニーズに対応/誰もが働きやすい環境

⬇︎単なる「特徴」から「独自性」に

独自性

●60年にわたり部品業界を牽引。創業時から取引がある顧客もいる

●世界20カ国に自社製品を提供、特定の部品ではトップシェア企業

●○○の技術で特許を保有している

●自由に選択できる社員研修制度がある/社内ベンチャー活動を推進



〈ネット系ベンチャー企業の場合〉

特徴

●AIで旅行計画がつくれるアプリを開発➡新規性

●月額課金➡顧客メリット

●充実したサポート体制➡顧客メリット

●元銀行員が起業➡ビジネス上のメリット

⬇︎単なる「特徴」から「独自性」に

独自性

●50万通りの中から最適な旅程を2分で提供するアプリを開発している

●月額200円で何度でもシミュレーションできる

●旅先での緊急時には24時間サポート対応がある

●大手金融機関が出資している

気をつけたいことは、この時点ではあまり予見や先入観を持たないことだ。最初から「自社はこうであるべきだ」「こういう独自性を経営理念にしてきた」などアウトプットが先行してしまうと、これからの広報展開に相応しい「独自性」が見つからなくなる。

経営者や広報担当者が悩んでいるのは、実は自社に「独自性がない」ことではない。これまで自社で「独自性」だとして考えられてきたものが、すでに世の中に普及して一般的になってしまったり、定着してしまった結果、必ずしも今の時代の広報テーマに相応しくなくなってしまっているというケースが多いのだ。陳腐化してしまった“かつて”の独自性を今の時代の独自性へとブラッシュアップするためには、先入観を持たずに一から自社の魅力について再考したい(図4)

図4 陳腐化する「独自性」のブラッシュアップ法(一例)

過去

女性が活躍しやすい企業⋯現在では珍しくない

⬇︎

現在

産休・育休が取得しやすい社風⋯将来的な「独自性」とまではいえない

⬇︎

将来

休暇・勤務地・勤務日数など働き方を自由に選べる制度⋯訴求ポイントを明確にすることで陳腐化を避け、独自性を明確にする

視点2
独自性を訴求するメリットを知る

なぜ独自性が重要なのか?

ところで、経営者や広報担当者はなぜ自社の「独自性」の訴求にこだわるのか?一見当たり前のことに思えるかもしれないが、企画書として「独自性の訴求」を提案する際には、前述の「独自性とは何か?」と併せて、「なぜ独自性を訴求するのか?」についても触れておきたい。

もっとも、この命題は企画書上にまとめるにはなかなか難しい。戦後間もない、圧倒的なモノ不足の時代であれば、生活必需品を製造・販売する企業の社会的使命は明確だった。企業が存在し商品やサービスを生活者に提供すること自体に十分な価値があったからだ。

しかし、市場にモノが溢れ、生活に必要なモノ・サービスの入手に困ることは少なくなった今。企業が何のために社会の一員として存在しているのか?どういう社会価値があるから従業員はこの企業で働き続けるのか?「社会的な文脈」や「他社との比較」において、企業が自ら存在意義を定義していかなくてはならない時代になっている(図5)

図5 企業が「独自性」を訴求する背景

過去 モノ・サービス不足の時代

⬇︎

企業活動そのものに「価値」があった

現在 豊かな時代

●商品差別化が困難

●競合他社による類似した企業活動

●価格競争によるブランド力低下

●資金・人材の確保が困難・流動化

●情報化社会、複雑な情報流通

⬇︎

企業として独自の存在価値を明確化することが必要になる

豊かな時代となり、市場には多くの“モノ”が溢れ競争が激しくなると、商品や企業ブランドに独自性を持ち得ない企業・ブランドは価格競争を始める。その結果「安売り」を行う企業が出てくる。「安さ」で差別化できる企業はまだよいが、多くの企業において「安売り」はブランドの信用と利益の低下につながる。ブランド力が低下するとさらに「安売り」をせざるを得なくなる。こうして企業にとっての悪循環を生む。企業ブランドが低下することで、企業にとって欠かせない「顧客」「資金」「優秀な人材」などが離れていく。

また、企業に関連する「情報」も商品・サービスと同様に社会には溢れている。メディアが注目して報じるのは独自性の高い活動を行っている企業だ。独自性に乏しい企業では、広報担当者がいくらプレスリリースを用意したり、メディアに向けたアプローチを行ったりしても、報道されることはない。

視点3
企画書に欠かせない「因果性」の精査

「独自性」の意味を定義

企画書を書く際に注意しなくてはならないことは、一見当たり前のことであっても因果関係を精査しなくてはならないことだ。

まず企画書内における「独自性」の意味を定義する。この言葉の定義がないと企画書を読む相手によって「独自性」について様々な解釈をしてしまうので注意が必要だ。

本稿では、独自性について「新規性」「顧客の利益」「自社の利益」の3つを満たすものとして定義した。その上で、自社にとっての「独自性」には、どういったものが挙げられるのかを具体的に提示する。そして、そもそもなぜ独自性について広報部門が訴求しなくてはならないのか。また独自性が浸透しないことで、今後どのような不利益を自社が...

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