新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
新型コロナウイルス感染症の発生以降、「働き方改革」にさらに注目が集まっています。今回はミクシィのリリースに着目しました。
ミクシィは、SNSの先駆けとして一世を風靡し、現在はスマホゲーム「モンスターストライク」や、スポーツ、ライフスタイルなどに関連したITサービスで再び知られています。
同社ではコロナ流行が本格化した2020年3月、全社的にリモートワークへ以降。7月からはアフターコロナを見据えて、リモートワークとオフィスワークのいいところを組み合わせた「マーブルワークスタイル」を試験導入しました。その後、社内アンケートを実施し、ルール改正を経て2022年4月から正式に制度化することを伝えるのが、今年3月9日に配信したリリースです。
社内アンケートの結果、部署によって業務上の最適な出社回数やタイミングが様々であることから、部署ごとに出社回数を決定できるようにし、フルリモートワークも可能に。交通手段を飛行機や新幹線などにも拡大、交通費の上限を月15万円まで実費支給し、コアタイムも12~15時と遅めかつ短めになりました。子供を保育園に送ってから通勤したいなど、ワークライフバランスに配慮した内容です。
また、業務外コミュニケーションが減ったと感じている従業員が一定数いたことから、相互理解や連携を高める施策も実施する予定としています。制度以前から熱海~東京間を通勤している社員もおり、正式導入後はさらに遠距離勤務者が増える見込み。実家から通勤したい人や、自然豊かなところで子育てをしたい人が増えている時代性を反映しています。
「もともと当社は、IT業界にしてはリモートワークに消極的な方でした。利用者のコミュニケーションを生み出す企業として、自分たちもじかに会ってコミュニケーションを大切にしながら働きたいという上層部の思いがあったからです」と広報部企業広報グループマネージャーの古澤祐幸さん。
けれどコロナによる時代の要請に合わせ、コミュニケーションは図りつつもリモートを取り入れることになったわけです。今回のリリースを作成したのは同グループの森野由美さん。配信の約1カ月前、すでに固まっていた制度の紙資料をベースに、聞き取りをしてまとめました。
後発こそ経緯説明を重視
では、リリースを見てみましょう。(ポイント1)まず目についたのは、制度化した目的や背景、経緯などに文字数とスペースを割いて、丁寧に説明していることです。おふたりも認めるように、特にIT業界ではリモートを活用した働き方改革が進み、ミクシィの情報は後発といえます。このままでは少し鮮度が足りないからこそ、経緯説明が重要な役割を果たしています。
新しい社内制度は、往々にして担当部署が花火を打ち上げるだけのものが多いですが、ミクシィでは試験期間にアンケートを実施し、労働現場の実情を反映させたことにニュース価値があります。だからこそ、経緯の部分は厚く説明する必要があるのです。
(ポイント2)そのため、試験期間と正式導入後の違いを、表組みで分かりやすく説明しています。文章だけでは理解しにくいことも、表で対比すると一目瞭然です。労務関係の話題はビジュアルが用意しづらいもの。ミクシィもこれまでビジュアル要素なしのリリースを配信することがあったそうですが、1枚目の冒頭に社内デザイナーによるメインビジュアルを入れたことで...