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リスク広報最前線

「ジェンダー観」に言及した企業のトップ発信、表現の吟味を

浅見隆行

複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

問題の経緯

2022年4月1日

企業のトップによる社内向けの発信が、批判を浴びるケースもある。公式行事の場合は、事前にチェックをする仕組みをつくったり、炎上しそうな点を助言したりと工夫が必要だ。

©123RF


NTT澤田純社長が入社式であいさつし「私たちは女性と男性は違うと考えています。人間という意味ではもちろん一緒ですけれども、能力や特性の得意な分野が違うと思います」と発言したと報道。「発言の根拠となるジェンダー観の認識が古い」「脳機能は個人差が大きく、典型的な女性脳、男性脳を持つ人はほとんど存在しないことが科学的に分かってきている」などと批判を浴びた。入社式は非公開だったが、あいさつの内容は報道各社に公開されていた。

4月1日に行われたNTTの入社式でのあいさつで、澤田純代表取締役社長が「女性には女性のよさ、男性には男性のよさがある」と言及したことが、ジェンダーの観点から問題があるのではないかと指摘されました。

しかし、社長あいさつの結びは「女性であれ、男性であれ、責任を持つ立場になっていただきたい」というものだったので、全体を通じて見ればジェンダー平等を促進する内容でした。あいさつの一部分だけを切り抜かれて批判されてしまったようにも見えます。

今回は、社長あいさつのような企業のトップがメッセージを発信する機会での広報の留意点を検討したいと思います。

事前チェックなしの発信時は特に注意

企業のトップがメッセージを発表する代表的な機会は、株主総会や投資家向け説明会です。これらは社外に向けた情報発信の機会ということもあり、何を話すのか、発信する内容を固めたシナリオや台詞を事前に準備することが多いので、その内容が批判の対象とされて炎上することは滅多にありません。

これに対して、入社式や朝礼、営業会議など社内に向けて企業のトップが情報発信する機会では、何を話すのか、発信する内容は発信者に委ねられることが一般的かもしれません。この場合、発信者以外によるチェックを事前に経ないため、内容や表現に炎上する要素が含まれていても修正されることなく、そのまま発信されてしまい炎上してしまうことがままあります。

朝礼や営業会議で企業トップが発信する内容を広報部門が事前にチェックすることは難しいと思います。しかし、入社式などの公式行事の場合には企業トップが発信する内容を広報部門や総務部門が事前にチェックできるような仕組みづくりが望ましいです。

報道によると、NTTの入社式は非公開だった一方で、メディアにはあいさつの内容が公開されたそうです。メディアに公開することが予定されていたのであれば...

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