
若者言葉の研究
SNS時代の言語変化
堀尾佳以/著
九州大学出版会
232ページ、3300円(税込)
本書は、筆者が研究成果として発表した博士論文をもとに執筆されている。20年以上にわたり独自に収集した若者のリアルな会話記録をはじめ、新聞・雑誌やSNSなど、幅広い手法で集めた若者言葉を言語学の観点から分析。主に1990年代から2010年代に生まれた若者言葉を対象とした。
研究のきっかけは、著者自身が学生の頃に「若者言葉の乱れ」が世間で取り上げられていたため。若者言葉は“乱れている”と表現して正しいのか。「そこにルールはないのか解明したい」──。「コピる」「それな」など豊富な実例を取り上げながら、規則性を紐解き、『激おこぷんぷん丸の言語学』と銘打った本書。その結果として記されているのは、“乱れ”ではなく、実は現代語の“変化の過程”であり、日本語が生きている証拠だった。
若者言葉にはルールがある
「若者言葉はどうしても単なる流行語や俗語として扱われてしまいがちです。でも私は、言語学として研究する意義があり、後世に受け継ぐべきだと主張したかったんです」と語る堀尾氏。研究が進むにつれて、単なる流行り廃りではないことが明らかとなった。例えば、「コピる」は“動詞化「ーる」言葉”であり、他には「パニクる」「きょどる」などが挙げられる。さらに、“新しい形容詞”としては「尊い」「普通に」「微妙」、“ぼかし言葉”なるジャンルもあり「それな」「っていうか」「みたいな」などがあると示唆する。
そして、新しいとされる若者言葉の最大の特徴は、活字化された瞬間に「古い」とみなされる点だ。その背景には若者が、暗号のように仲間内で使用する言葉として、若者言葉を認識している実態が隠されていた。活字やメディアに出た途端に他の世代にも認識され、暗号の機能は果たせなくなり、また新しい若者言葉が生まれていく。
この性質のせいか、言語学として未確立のせいか、死語となった過去の若者言葉を集めた資料は世の中にまだ少ない。本書の巻末には若者のリアルな会話をそのまま文字化した『自然談話録音文字化資料』を掲載。九州大学学術リポジトリに登録されたこの資料(博士論文含む)のPDFダウンロード数は、一般的な論文の平均が100~1000回なのに対して約17万回を数えた(現在は論文要旨のみ閲覧可)。
リアルな接点持ち若者理解を
また、7章の「進化し続ける若者言葉」では、現在も使用されている若者言葉について触れられている。学生が「激おこぷんぷん丸」を図解するページでは、若者言葉の概念に触れながら、その誕生経緯まで理解できるはずだ。
ただ、書籍や資料として活字化された若者言葉は、貴重だがもう古い。実用的なコミュニケーションとして発せられる若者言葉を知り、受け手側がその言葉にどんな印象を抱くのか、その真実を知るにはリアルに若者と接点を持つほかないと著者は説く。
消費活動の中心にいるZ世代に向けて、商品・サービスを開発して発信するために、広報担当者は何をすべきか。まず広報視点を取り入れたコンセプトメイクや切り口を搭載するために、開発段階から担当者と協業する体制を整える。そこから、著者をはじめ大学や教育機関などと協力しながら、学生のリアルな会話を観察。ターゲット世代のトレンドが反映されている若者言葉を通じて、興味・関心やニーズを抽出し、発信に役立てると良いだろう。

堀尾佳以(ほりお・けい)氏
2015年、九州大学大学院芸術工学府にて博士号取得(芸術工学博士)。研究タイトルは『若者言葉にみられる言語変化に関する研究』。現在は宇都宮大学工学部留学生担当専任講師。日本語学・異文化コミュニケーションを専門に、今も学生と接点を持ち、若者言葉に触れ続けている。