「サイトの翻訳に手が回らない」。そんな広報担当者に向け、サイト多言語化の専門家が、ステークホルダーの満足度を高める翻訳のコツを解説します。
儲かるところに投資するのではなく、E(環境)S(社会)G(ガバナンス)といった社会課題解決に寄与する事業に資金を流す。こうしたESG投資の考え方が浸透するにつれ、財務情報だけでなく、「この企業は社会にどんなインパクトを与えるのか」を判断するための非財務情報が考慮されるようになりました。一方、市場で存在感を増しているのは海外投資家。数値だけでは示せないESG関連の情報については、言葉の壁を取り払う必要があります。
実際、4月の東京証券取引所の再編に伴い、自社サイトの英語コンテンツを充実させ、投資家への発信を強化する企業も出てきています。年1回発行する統合報告書だけでなく、更新性の高い自社サイトが、非財務情報の重要な発信源になっているのが分かります。
ESG情報を見ているのは誰?
投資家だけでなく取引先にとってもESG情報は欠かせません。例えば「部品を安価に仕入れられると思ったら奴隷労働がなされていた」と分かれば、仕入れ先から排除することになるでしょう。ESGに取り組む企業は、ビジネスパートナーにも社会的責任を求め、取引全体を持続可能なものにしようとしています。いまや国内の取引先だけに閉じたビジネスが難しくなっていますから、非上場企業も、発注される側も、海外取引先に向けたESG情報の発信が今後求められるようになるはずです。
優秀な外国人材
また優秀な外国人材の採用にもESG情報は有効。特に欧米諸国は「仕事を通じて社会全体を良くしていく」という価値観が浸透しているため、採用や従業員のモチベーションアップに直結しやすいのです。投資家向けの画一的な開示書類だけでなく、企業のカルチャーが伝わりやすく、様々なステークホルダーとの接点となる自社サイトでESG情報の発信を強化するとよいでしょう。
英語対応から始めるESG
さらに言えば、企業がコーポレートサイトやECサイトなどを多言語化し、「どんな言語のユーザーでも情報にアクセスしやすくする」こと自体が、ESGの「S(社会)」にあたる、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進にもなります。
想像してみてください。英語でも中国語でも閲覧できる企業サイトと、中国語だけのサイト。多様性を尊重している印象を持つのはどちらでしょうか。どのステークホルダーともコミュニケーションをしようとしているか、その企業姿勢はサイトを見れば一目瞭然なのです。
DE&Iを企業で推進するなら、サイトの英語対応は、その第一歩になり得ます。さらに約10年後、ネット上の非英語ユーザーは50億人にのぼると見られます。英語に限らず、多言語でコミュニケーションし、サービスを提供する流れは加速していくでしょう。
従業員のエンゲージメント
また日本企業で働く外国人従業員にとって、イントラネットの多言語化が働きやすさにつながります。たとえ外国人比率が低かったとしても、一人ひとりが重要な従業員であることは変わりありません。どの従業員も時差なく同じように情報が入手できビジネス機会が増えれば、企業の持続的な成長にもつながります。コロナ禍で海外出張が難しい中、トップメッセージや企業が大切にする価値観を共有する機会を増やし従業員エンゲージメントを高めていくことも重要です。
翻訳は経営課題に!
利益を出すことだけを考えれば、利用者が少ない言語に翻訳し情報を提供するという発想にはなりにくいものです。しかし、ここまで見てきたように、ESGの取り組みが、ステークホルダーからの評価を高め、企業価値を向上させていきますから、ステークホルダーとの多言語でのコミュニケーションは避けて通れないものになっています。多言語化は今後、経営課題として捉えられていくようになるでしょう。
まずはサイトの英語対応から、ESGのSの取り組みを進めてみてはどうでしょうか。ステークホルダーとの接点が深い自社サイト(コーポレートサイト、ECサイト、製品サイト、イントラサイト、ブログなど)から検討してみてください。
投資家の視点
サイト多言語化が企業のESGを推進
ウェブサイトを多言語化し、日本語を母語としないステークホルダーが、情報にアクセスしやすくすること。これはDE&Iの観点から、企業のESG推進につながります。そしてESGに配慮する企業は、取り組まない企業に比べ、持続的成長が見込めるのです。