新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
毎年4月になると、企業の入社式の模様がニュースを賑わせます。その中でも社長が大鉋(おおがんな)で木材を削るシーンが印象的な木造注文住宅のアキュラホームを取材しました。
「カンナ削り入社式」と呼ばれるこの方式が始まったのは2006年のこと。宮沢俊哉社長が大工だったこともあり、技術者以外の新入社員にも心を込めて家をつくる“匠の心”を感じてほしいという思いから始まりました。2012年に『カンブリア宮殿』(テレビ東京)で入社式が放送されて以降、メディアに注目されるようになったといいます。
2021年は2m以上ある木の柱に社長や新入社員が筆で文字を書き込み、途中で切れることのないよう大鉋で見事に削り上げます。「これがすごく難しくて、私は30㎝くらいで切れてしまいました」と広報課の西口彩乃さん。
毎年2月に開かれる人事部の会議に広報も参加し、入社式の内容を検討します。内容が決まると、事前にいくつかのテレビ局に声をかけて取材に入ってもらうほか、入社式から数日後には報告リリースを配信。テレビ局への呼び込みは、リリースとは別資料として取材依頼状を送っているそうです。
入社式当日、広報はメディアの取材を引率しつつ、リリース用写真も撮影しなければならず多忙を極めます。「メインはあくまで入社式。新入社員に入社式をしっかり楽しんでほしいので、進行が最優先です。メディアの方には入れるブロックをあらかじめ伝えておき、退席も自由にしています。新入社員は取材を受けるのが初めてなので、事前に『緊張しないで、明るく答えてね』などと声をかけています」。
年ごとにテーマを設定
同社は2022年も入社式を実施していますが、本稿では2020年と2021年のリリースを見てみましょう。(ポイント1)タイトルを見ると、新型コロナウイルス感染症が広まり始めた2020年は「分散型で中継方式」、2021年は「新入社員の発案」と、年ごとに大きなテーマがあることがわかります。カンナ削りという目玉はあるものの、何年も続くとメディアも新鮮味を感じなくなるもの。毎年取材したいと思ってもらえるよう、時流に応じたテーマや企画を用意しているのです。
ちなみに2020年は、17の会場を中継で結び、リモート形式で開催。新入社員の両親もパソコンを通して見られるメリットがあり、リリースにも「入社式を見ることができて良かった」というコメントが載せられています。
一方の2021年は、内定者とリモートで顔合わせを行った際に「入社式はリアルで開催し、新入社員全員で集まり絆を深めたい」という声が上がったことから、それを実現する企画を検討。
新入社員が所信表明の漢字を一字ずつ木の柱に書き込んだほか、密集しないように人文字で「絆」をつくることにしました。どちらも画になる企画であることが意識されています。
(ポイント2)構成は、2020年が箇条書きを多用しているのに対し、2021年は文章多めの説明型。新鮮味を出すために、あえて見た目を変えているのではないかと感じます。社長の祝辞に中期5カ年計画を入れて配信すれば、社員や取引先といったステークホルダーにも読んでもらえて一石二鳥です。
(ポイント3)写真もインパクトのある絵柄をメインに選び、目を引かせることに成功しています。例えば2021年は、当初「絆」の...