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リスク広報最前線

侵攻想起につながりかねない発信の中止など、未曽有の事態にも冷静な判断を

浅見隆行

複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

問題の経緯

2022年3月17日

チューリッヒの「Z」が、今回の侵攻を支持する意味として使われている「Z」を想起させる、として同社は3月にもSNS上でのこのロゴの使用を取りやめている。

©123RF


スイスの保険大手チューリッヒが、同社のロゴである「Z」の使用をSNS上で取りやめていることが分かった。共同通信社が報じた。Zは社名のアルファベット表記「ZURICH」の頭文字であるため、ロゴにも使用されていたが、継続するウクライナ侵攻でロシア軍の車両などに記されていることから、戦争を連想させるのを避けるため、取りやめられた。

2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は日本企業の活動にも悪影響を及ぼしています。ウクライナに進出している日本の企業57社は事業を停止。また、JETROによると、ロシアに進出している日本の企業もその43%が事業の一部または全部を停止(3月31日現在)。さらに、エール大学によると、世界規模では500社以上がロシアでの事業を停止、または撤退しています。今回は、こうした紛争をきっかけにした企業の広報を取り上げます。

売上確保の代替手段も合わせて伝えよう

ロシアによる侵攻はウクライナの西部にまで及んだため、企業はウクライナでの事業を停止、撤退せざるを得ません。この場合、企業は事業の停止、撤退はもちろんのことですが、それに加えて、代替先の確保に向けた動きについても一緒に広報してください。特に上場企業では事業の停止に代わる売上の維持・確保について株主の関心が高いからです。

例えば、日本たばこ産業(JT)は、3月の株主総会で、2月下旬にウクライナ中部のたばこ工場を一時休止した件に関連して、「代替の生産地をリストアップして検討を終えた」ことなどを説明しています。なお、この広報の姿勢は、紛争による事業の停止や撤退の場合だけではなく、地震等の自然災害が起きたことをきっかけに事業の停止や撤退をする場合も同じです。

また、ウクライナでの事業停止、撤退を決めた理由のひとつとして従業員の生命の安全を守りたいとの意向を示すことができると、安全配慮義務を意識して撤退を判断した従業員思いの会社であるとの印象を与えることができます。住友電工が2月25日にウクライナの工場停止に関して「従業員の安全確保を優先する」と広報したことは、その好例と言えます。

対応の遅れが株価下落につながった

今回の企業の動きで特徴的なのは、侵攻による直接の被害が発生していないロシアに進出している企業も続々と事業を停止、撤退していることです。もちろん、直接の要因は、西側諸国がロシアに経済制裁をしている影響、ロシアが対抗措置を講じている影響です。しかし、今回の紛争では、企業が活動を一斉に止めることでロシアによるウクライナ侵攻を...

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