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著者インタビュー

真に機能する「メディア」「アーカイブ機能」をつくるためのステップとは?

松本恭幸氏

地域でつくる・地域をつくる
メディアとアーカイブ

松本恭幸/編集
大月書店
272ページ、2420円(税込)

持続可能な地域社会のデザインに向けた全国各地の先進的な計13もの取り組みを紹介したのが本書『メディアとアーカイブ』だ。現場で活動するNPO・NGOや大学教授などにインタビューを実施し、地域づくりを専門とする著者が編集を担当した。一定の観光資源を持つ“地方”ではなく、より小規模な“地域”に焦点を当てているため、より具体的かつ実践的な内容にまとめられている。

地域には、定住・移住人口や関係人口の増加に向けた課題がある。本書によると、その解決策として「地域の情報環境整備」「地域からの情報発信と交流の場づくり」「地域の記録と記憶の継承」の3点が重要。その具体策が、情報発信を行う「メディア」とローカル情報の蓄積を担う「アーカイブ」の確立なのだ。

相互発信とアーカイブ機能

2000年から2010年代にかけて、自治体が行う地域のコミュニケーションデザインへの主な取り組みは、オンラインコミュニティの形成を目的とした電子会議室の設置や地域SNSの活用だった。

しかし、現在は一方的な情報発信ではなく、住民らと相互の交流が主流に。その成功事例として熊本県浅草市のウェブサイト『A-map』と『天草Webの駅』を挙げる。

「成功要因はサイトの役割を棲み分けたことです。『A-map』は“地域内”に向けた情報ポータルサイト。地域づくりを目的とした、地域住民同士がローカル情報を共有する仕組みです。『天草Webの駅』は“地域外”に向けた魅力発信型のPRサイト。定住・移住人口や関係人口の拡大を目的として、シティプロモーションの機能を担っています。また同時に、データベース化の役割も果たし、情報のアーカイブにも成功しました」。

本書では、このような地域情報化に加えて、『北海道ブックシェアリング』を例に読書環境を整備する重要性も述べている。「都市と比べた地域の教育・文化環境の格差は、図書館をはじめ読書環境に寄与するところが大きい。本の貸し出しはもちろん、コミュニティ機能を持たせることで、地域住民の課題解決に役立つ情報拠点やサードプレイスとしての活用も可能に。地域づくりの担い手の人材育成やオフラインのネットワーク構築、さらにはシビックプライドの醸成など、持続可能な地域社会のデザインに欠かせない効果も生み出します」。

メディア運営も広報の仕事に

今やオウンドメディアの立ち上げ・運営も広報業務のひとつに。そうした潮流を踏まえれば、地域という独自性を捉えた本書が有益なのは分かる。

ここまでで紹介した、真に機能する「メディア」「アーカイブ機能」をつくるためにステップは、次の通りだ。

まずはヒントを得ること。本書での情報収集をはじめ、自治体や民間のシンクタンク、地域大学の協力などを得ながら、先進的な取り組みを知ることから始めたい。次に、官民一体となり情報環境を整備すること、と本書は述べる。地域内と地域外に向けたウェブサイト制作や図書館の充実とコミュニティ機能の拡充し、情報共有・発信や交流の場づくりを図る。最後に地域の記録や記憶に関しては、映像や展示物なども含めてアーカイブを検討すべきだと締めくくる。

松本恭幸(まつもと・やすゆき)氏
武蔵大学社会学部メディア社会学科教授。1990年3月、早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。出版メディアの執筆、編集やマーケティング調査の仕事から、衛星放送、インターネットの新規事業開発、コンテンツ企画開発のプロデューサー、ディレクターに至る12年間の会社勤めに終止符を打ち、1年間、多摩美術大学で映像制作のゼミや卒業制作指導の非常勤をした後、2003年度から武蔵大学に勤務。著書に『市民メディアの挑戦』(リベルタ出版)、『コミュニティメディアの新展開』(学文社)ほか。

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