新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
近年、本を出版する経営者や専門家が増え、「どうしたら本をメディアで紹介してもらえるのか」という相談がよくあります。
しかし書籍はそもそも出版数自体が多い上に電子書籍の急増でPRのハードルが高くなっているのが実態です。そんな中で上手に掲載に結びつけている昭文社の例を紹介したいと思います。
各都道府県の知られざるトリビアを「地形」「鉄道・交通網」「歴史」「産業&文化」の4項目にわたり約40本紹介する「トリセツシリーズ」は、2019年9月にスタートしました。
同社は地図をキーコンテンツとする出版社で、『ブラタモリ』(NHK)にも企画協力をしたことがあります。地形や岩石などに焦点を当てたアカデミックな地域本が人気を博す状況に「当社が出版しなければ名折れだ」との思いで始まった企画です。当初はそこまで大きなシリーズにするつもりはなかったものの、予想を上回る好評に加えてコロナで巣ごもり需要が高まったこともあり、月に3県ほどのハイペースで刊行する人気シリーズに成長。
90年代に刊行していた県別ガイドブックのコンセプトを踏襲し、観光地だけでなく全市町村について何かしらの情報を入れる丁寧なつくり方をしており、全国津々浦々に学芸員や教員、郷土史家などの協力者を擁する同社ならではのシリーズといえるでしょう。
素材入手から実働2日で制作
リリース制作は、昭文社ホールディングス広報担当の竹内渉さんと張迪(ちょうてき)さんが分担しています。発売の約1カ月前には本が下版するので、そこで素材をもらい、実働2日でリリースを完成させるそうです。刊行の約20日前に配信した「茨城のトリセツ」のリリースは早い方で、月に複数の書籍が出る場合は時期が重ならないよう少しずつずらしながら、遅くとも刊行1週間前までに配信しているとのこと。
では、そのリリースを見てみましょう。(ポイント1)タイトル部分は吹き出し風に「祝!魅力度ランキング最下位脱出!」と、全国ニュースにもなったキャッチーな話題を入れることで訴求力を高めています。サブタイトルに「魅力があり過ぎてアピール下手?」など、“マップエンターテインメント”と銘打ったシリーズらしいユーモアあふれる親しみやすさを感じさせます。
(ポイント2)通常、リリースは商品データから入りますが、このリリースではそれらを末尾に回し、本の内容紹介をメインにしています。書籍は、中身が分からないと記事の書きようがない面があります。そこで実物を献本するわけですが費用もバカになりません。トリセツシリーズでは、4つの章から注目トピックを2つずつ選び、見開き図版と2行解説で中身を紹介。目次も掲載し、リリースだけで概要が伝わる工夫をしています。現物は、リリースを見て問い合わせをしてきたメディアに送る方法を取っているのです。
1章につき各2つのトピックは、竹内さんと張さんが実際に本を読んで面白いと感じたページをピックアップ。当初は「地形」や「歴史」だけをクローズアップするなど、巻によってリリースの構成も異なりましたが、形式を統一したほうが効率的だということでフォーマット化しました。読み手がどの部分に反応するかわからないので、なるべく多くの要素を散りばめておくのは正解でしょう。
同じ理由から、県央、県南など、同一地域ばかりに集中しないように注意もしているとのこと。こうした気遣いや構成の見やすさは、竹内さん自身がかつて編集部門にいたからでしょう。
一方の張さんはウェブ部門の出身。ウェブは...