メディアリレーションズを広報の情報戦略のひとつと捉え、オウンドメディアでの発信を含めた情報流通構造の全体像から見直す。すると、どのような体制づくりを強化していけばいいのか、その道筋が見えてくる。
メディアリレーションズからコンテンツプロデュースへ
企業のオウンドメディア利用が定着し、SNSや動画を活用したコミュニケーションが一般的となった。これに伴い企業の広報部門が発信する情報が生活者に伝わるまでの情報流通構造も大きく変わりつつある。これまで“デスクトップ”が前提だった自社サイトもスマホからのアクセス対応が優先されるケースも。オウンドメディアの位置づけも自社情報のアーカイブの場としての役割に加え、よりタイムリーに多くの生活者に向け情報を発信し閲覧してもらうために、ジャーナリスティックな視点でのトピック(ニュース)の配信需要も高まっている。
主にマスメディアにニュースとして自社に関する話題を「取り上げてもらう」ことが最終ゴールだった広報担当者の多くは、これまで以上に自ら新しい顧客接点を探索していく力が求められている。今回はこうした外部環境における情報流通の発展に合わせて自社の広報体制を見直し、どのように発展させていけばよいか。社内提案する際の企画書の書き方について考えたい。
視点1
情報流通構造の変化を把握
新メディアリレーションズに対応する強化策
情報流通構造の発展に合わせ、メディアリレーションズのありかたを見直し、広報体制を強化していくにはどうすればいいのか。今回はこの体制強化のための企画書を考えていきたい。まず押さえておきたいのは、与件の整理だ。現状の情報流通をどういった構造であるものとして認識し、この流通構造の下でどういった情報戦略を目指すのか、というグランドピクチャー(全体観)を描くことが重要である。
デジタル化以前の情報流通
与件整理で欠かせない視点は、過去から現在、そして今後に向けて情報流通がどういった変化を遂げつつあるのかという点である。
与件整理がないまま「新しい体制」のメリットを強調し、「強化策」だけを提案する企画書をよく目にする。熱意は伝わっても、上司や他部門にとっては「寝耳に水」で唐突な提案だと思われてしまう。
与件整理の目的はこの唐突感を払拭し、情報流通構造についての基本的認識を、提案を受ける側との間で共有する点にある。大まかな流れをまとめたので参考にしてもらいたい。
まず、デジタル化以前の社内の広報体制は図1のようなメディアリレーションズ中心だった。多くの広報担当者はマスメディア(いわゆる4マス)に向けて情報を発信し、それを「記事」にしてもらうことが主な広報活動だった。
この際のコミュニケーション方法(ツール)は、プレスリリースの発行、記者発表会、メディア懇親会の実施などだ。広報担当者に求められる役割と能力としては、図2の4点が主であった。
❶社内情報の収集・集約
❷公式発表(プレスリリース)としての文章(言語)化
❸メディアからの問い合わせに対する対応力、解説力
❹長期的なメディア(記者)との関係性の構築
オウンドメディアの発展と広報スキルの変化
1990年代後半から2000年代に入ると、広報業界にもデジタル化の波が押し寄せた。これまでと最も変わった点は、企業による「オウンドメディア」の活用である。これまでは外部メディアによる第三者目線での記事を通じて生活者に向け情報発信を行っていたが、以降はこうした業務に加え、「オウンドメディア」を通じて、生活者に直接「自社を主語」としたコミュニケーションを直接行っていくことになる。
この変化は大きく、広報担当者に求められる役割や必要とされる能力も大きく変わっていった。
もっとも、筆者個人の感想だが、日本企業のオウンドメディアへの対応は比較的、順調だったと考えている。この理由のひとつとしてブログ文化の普及と定着が早かったこと。そして「社長ブログ」という形での企業による生活者へのコミュニケーションが広く受け入れられたからだと考える。
発信する側(経営者)にとっては、HTMLの知識がなくても、ブログ独自のコンテンツ管理システム(CMS)の簡単な操作だけでテキストと写真を公開できる扱いやすさが、普及につながった側面は強い。
また何より、公式な企業情報の発信に比べて「社長が個人的な意見や思いをテキストベースで語る」という私的“風”なコミュニケーションが、テキスト文化に慣れた日本人に受け入れられたのも要因のひとつとして考えられる。社長たちにも自分自身の言葉で生活者にメッセージを伝えたいという潜在的ニーズがあったのであろう。
2010年代以降は、こうしたブログや企業サイトに加えSNSアカウントを活用したコミュニケーションへとさらに進化する。広報担当者に求められる能力としては「コンテンツ制作力」の比重がさらに高まっていく。生活者(時に潜在顧客や既存顧客など)からどういったコンテンツが今求められているのか。インサイトの把握のため情報収集と分析を自ら行うことが一般的になった。
現在でも、こうしたオウンドメディアの有効活用に悩みを抱える企業は多い。旧来型(メディアリレーションズ中心)からどうやって良質なコンテンツをプロデュースできるチームへと強化できるかが大きなテーマとなっている。
こうした状況にある広報部門にとっては、自社にとって今必要な機能(あるいは能力)が何であるか、まずは明確に定義することが提案書作成の第一歩となる。
では、これからの広報部門にとって必要な力は何かを考えていきたい。
視点2
広報の役割を再考する
キュレーション力とコミュニケーション力
広報部門が抱える最近の課題に対して、私はよく「キュレーション力の強化」という切り口で話をさせてもらう。キュレーション力とは、単に「手前味噌」の視点で、自社にとって都合の良い情報を発信するのではなく、自ら情報を収集・分析しながら、生活者視点での「新しい価値」を見出し情報に「意味付け」を行っていく能力のことだ。
企業情報ではなく、受け手にとって価値ある情報として自社が発信するコンテンツをプロデュースして伝えていくためには、「情報の目利き」であり「ストーリーテラー」としての能力が求められている。
また、キュレーション力(情報の“目利き”力)と合わせて、これまで以上に情報発信力(コミュニケーション実務の力)が求められている。具体的には、自社の発信するオウンドメディアを通じて、直接的に生活者と「対話」を行う力だ。
こうした業務はかつてカスタマーサポート部門(アウトソースのコールセンターを含む)が担っていた。だが広報部門によってSNSアカウントの運用が始まることで企業と顧客との新たな接点が増えている。これにより広報担当者にはこれまでとは異なるコンタクトポイントでの「顧客対応」が求められるようになった。特に必要とされるのが、傾聴力、継続力、調整力などだ(図3)。
それぞれの能力を広報担当者が身に付けていくことが望まれているが、このようなスキルは、旧来のパブリシティやメディアリレーションズ活動中心の広報部門で重視された「スキル」とはイメージも内容も異なっている。
特に広報部門の責任者の方で、部門内のこうした能力強化を目指す際には、人事部などとよく協議の上、具体的な研修プランを検討する(提案書などの形で)ことも選択肢となる。具体的な制作、運用の技術については、既存の広報・マーケティングに関するいわゆる...