新聞や雑誌などのメディアに頻出する企業や商品リリースについて、PRコンサルタントの井上岳久が配信元企業に直接取材。背景にある広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウを、じっくり分析・解説します。
年末になるとユーキャン新語・流行語大賞をはじめ、一年を振り返る「今年の○○」がメディアを賑わせます。2021年に取り上げられた中で私が注目したのは、バイドゥの「Simeji presents Z世代トレンドアワード2021」でした。メディアが最注目する「Z世代」がキーワードです。
「Simeji」とは日本語入力&きせかえ顔文字キーボードアプリです。感情を表現できる顔文字や絵文字を20万以上搭載しているほか、例えば有名人が結婚を発表した際は、その有名人の名前を入力しただけで「結婚おめでとう」と出てくるなど、ビビッドな変換候補が出てくるのが特徴。また、「死にたい」という言葉が入力されると、「明日はきっといいことあるよ」とポジティブな言葉で励ましてくれる機能などもあります。
同社広報部の川本陽子さんによれば「トレンドニュースを反映する『クラウド超変換』機能が面白いと、ご好評をいただいています。常にトレンドをチェックしている20代の担当者がおり、スピード感を大事に反応しています」。私も娘に聞いたところ、その世代なら誰でも知っているアプリだと話していました。収益は広告収入で、ユーザーは無料でダウンロードできるため手軽に使えることも人気の理由です。
同社では2014年から、その年を表す顔文字を選ぶ「Simeji今年の顔文字大賞」を発表してきました。よく使われる顔文字にも流行り廃りがあり、時代の気分も表れているのです。
「Z世代」のカルチャーを発信
2021年には「Simeji presents Z世代トレンドアワード2021」として、顔文字だけでなく「ヒト部門」「モノ部門」なども新設し、規模を大幅に拡大してリニューアル。
「ダウンロード数5000万突破を目前に控え、SimejiチームからメインユーザーであるZ世代のカルチャーを発信できる場所にしたいと意見が出ました。そこで、『Z世代のトレンドはSimejiに聞けばわかる』と認識していただけるよう、調査項目を広げてランキング化することにしました」。
10月中旬に社内打ち合わせが始まり、広報やデザイナーも含めてランキング内容を検討。投票期間は11月2~7日の6日間で、10~24歳の男女7723人からの回答が集まりました。回答数の多さも信頼を高める大きな要素です。その後、全員で分析を行い12月2日に発表という段取りです。
アワードのタイトルや、最もテレビ露出が獲得できる実施時期などをチームで話し合いながら、広報主導で制作していきました。新語・流行語大賞が話題になる頃に発表し、相乗効果を狙ったのもうまいところです。またアワードに限らずリリースのタイトルは従来の「ダウンロード№1キーボードアプリSimeji」から、「Z世代に大人気!キーボードアプリSimeji」に変えたそうです。メインタイトルをメールの件名に流用するため、忙しいテレビ関係者がメールを開きたくなるよう「Z世代」をポイントにしたといいます。
ではアワードのリリースを見ていきましょう。
(ポイント1)3行のサブタイトルにもすべて「Z世代」を入れ、これでもかというほど前面に押し出しています。世の人たちは「Z世代」という言葉をよく聞くものの実態がよくわからず、知りたい欲求に駆られています。サブタイトル1行目はSimejiの特徴である「顔文字」を入れ、2行目は「SNS」など大人世代でも想像がつく内容を、3行目は「お互いの位置情報までアプリでシェア」と、大人世代に「へぇ~」と思わせる内容を選ぶなど、読み手の興味をそそります...