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直感的に伝わる投稿動画 ケーススタディ

面白さが分かりにくい魅力 実験室で起きる『感動体験』をYouTubeで

物質・材料研究機構 「まてりある's eye」

「次世代を科学の世界へと導く」、広報の目的は明確だった。実現に向けて、実験室で起こる感動体験を見える化したのがYouTube「まてりある's eye」。心を動かす動画をつくるには、広報の基本原則が大切であり、企画で8割が決まるという。

YouTube

2021年の「PRアワードグランプリ」を受賞。授賞式で小林氏は「研究機関は、魅力があるのに、伝え方で失敗しているものがたくさんある。私たちの活動が同様の研究機関などに知れわたり、各所が広報・PRに目覚めるそのきっかけになれればうれしい」と語った。

DATA
開設年 2013年
チャンネル登録者数 17.7万人(2022年2月時点)
コンセプト 物質や材料の研究で世界トップレベルを誇る、物質・材料研究機構(NIMS)。そこで生み出される革新的な新物質や、未来を変える新素材を2分~4分で紹介。物質・材料の世界にワクワクしてもらえる映像を、次世代の子どもたち向けに発信している。
制作・運営体制 1人(広報部)

物質・材料科学、つまり“素材”に関する基礎研究などを行っている国立研究開発法人「物質・材料研究機構(NIMS)」。同機構が2013年から開始した、実験動画を紹介するYouTubeチャンネル「まてりある's eye」が、8年の時を経てPRアワードグランプリ2021で最高賞であるグランプリを受賞した。

動画は、物質・材料に関する実験を解説した動画「鮮やか!実験映像」や、身近なモノの中に潜む材料の力を取り上げた「材料が作る日常品」を中心に計6シリーズを展開。素材産業における若手科学者人口の減少、この課題を解決するために、科学が持つ“人を感動させる力”をフィーチャーした動画を発信している。

次世代を材料科学に巻き込む

素材産業は国内において自動車産業に次ぐトップ産業だ。主要輸出品目ランキングでも、鉄鋼・プラスチック・有機化合物などの素材が上位に入っている。しかし、日本を支える重要な研究分野でありながら、材料研究に関心を持つ若者は減少傾向にある。その理由として、材料科学は面白さを理解するために必要な前提知識が多いという特徴が挙げられる。つまり、ロボットが動いたり、ロケットが打ち上げられたりするような、分かりやすく反射的に人の気持ちを動かす力を持っていないのだ。

そこでNIMSでは、日本の材料研究の未来を紡ぐために、広報の目的を「次世代を材料科学に巻き込む」ことに据えた。そう語るのは、同機構の広報室 室長・小林隆司氏だ。

動画でメディア露出が増える

広報ツールとして動画を活用したのは、科学がもたらす感動体験を見える化するため。小林氏は研究者へのインタビューの末、「ほとんどの研究者が科学の道に進んだきっかけとして何らかの感動体験を持っている。研究成果を発表するよりも、実験室に入って発見や発明など感動の瞬間をカメラに収めることで、視聴者にも同じような感動体験を味わってもらえるのでは」と考えた。

さらに、動画にしかない大切な要素として、“ストーリー”と“ビジュアル”の掛け算を挙げている。前述の通り、反射的に人の気持ちを動かせない材料科学において、瞬間を切り取った写真ではその魅力が伝わらない。時間の流れとともに気持ちを動かしていくストーリーがあって、はじめて視聴者を感動させられる。文章でもストーリーは描けるが、反応や変化など科学現象のワクワク感を伝えるには、やはり見える化が重要だ。

制作した動画をプレスリリースにも活用した結果、メディア露出は増加。NIMSの映像を使った30分のテレビ番組が毎年放送され、現在では多くの科学館や学校の授業でも使われるほど広まっていった。

「こだわったのはチャンネルのイメージです。チャンネルでは“材料研究の分野において感動を与える力がある”と判断した動画だけをアップすることに決めました」。戦略的にコンテンツを統一し、チャンネルイメージを形成することで着実に視聴者数は増加。8年にわたる若者とのリレーション構築の模索の果てに、動画1本あたりのチャンネル登録者数がJAXAの10倍などの成果を生み出している。

“分かりやすく”より“興味深く”

今なお企画・撮影・編集といった動画制作をひとりで担当する小林氏。大切なのは、カメラや編集ソフトより、“人を引きつけ、興味を持ち続けてもらう”といった広報の基本原則であり、企画の段階で8割決まる、と言い切る。

役立ったのが、NHK時代に身に付けた「知りたくなる気持ちをつくるテクニック」だった。「例えば、暮らしの中にある科学をテーマにしていた『ためしてガッテン』なら、放送時間は8時台で視聴者層はお茶の間にいる幅広い世代。科学に興味がない人に対して、いかに分かりやすく、論理的に説明しても、誰も振り向いてくれません。番組づくりで重要だったのは、知りたいと興味を引きつけ、気持ちを動かすストーリーでした」。

では、どうしたら受け手の気持ちを汲んだストーリーを企画できるのか。小林氏はその秘訣を「気持ちの逆算」だと明かす。具体的には、最も人の心を動かす部分を抜き出し、感情のピークに設定。そこで感動を生み出すために、直前ではどんな気持ちになってもらう必要があるのか、と繰り返し、観る側の視点で逆算しながら感情をプロット。そこに素材を当てはめていくと、生理的に無理がない気持ちの流れと興味深いストーリーを両立した動画が完成する。

春に届くコメントがやりがいに

「まてりある's eye」がPRアワードグランプリ2021で受賞した理由は大きく2つある。ひとつは...

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