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リスク広報最前線

対照的な2つの事例を通じ 教訓とすべきは危機管理広報の「本質」

浅見隆行

複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。

問題の経緯①

2021年12月28日

京都大学のデータ紛失問題に対し、「100%弊社の責」と謝罪した日本ヒューレット・パッカード。その潔さが、不祥事に対し企業価値を守る、もしくは向上させることにつながる。

©123RF

京都大学は、スーパーコンピュータに保存していたデータ約77TBが消失したと発表。うち約28TBはバックアップがなく復元不能という。原因は日本ヒューレット・パッカード製バックアッププログラムの不具合とのことで、同社は12月28日、謝罪文を発表。「100%弊社の責」と謝罪した。

問題の経緯②

2021年12月12日

鹿児島ユナイテッドFC(鹿児島U)が新ユニフォームに取り入れた大島紬の模様が、ナチスの「ハーケンクロイツ」に似ていると海外メディアが報じた問題。これを受け、鹿児島Uは12月12日、Twitterで「大島紬は鹿児島が誇る素晴らしい文化」と発信した。


危機管理広報は、往々にして、リスクが発生した際にニュースで取り上げられることを避ける、または取り上げられ方を小さくするための広報テクニックであると誤解されがちです。本来の危機管理広報は、危機で失いかけた企業の信頼を回復するための情報発信です。そのためには、テクニックに走るのではなく、自社に非があるときには潔く認め、非がないときには正当性を主張することが本来のあるべき姿です。今回は、この「潔く認めた」ケースと「正当性を主張した」ケースの2つを取り上げます。

「100%弊社の責」と潔く認めた日本HP

非があることを潔く認めたのは、日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)です。2021年12月14~16日にかけて、京都大学のスーパーコンピュータシステムのファイル約77TB分が消失する事故が発生しました。システムの納入会社である日本HPが作成したバックアップ用プログラムに不具合があり、一部のファイル群を削除してしまったのです。

京都大学は同月28日にこの事実を公表し、同時に、京都大学宛の日本HPによる報告書も公表しました。報告書は、冒頭に「弊社100%の責任により(中略)ファイル消失の重大障害を来し、多大なるご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます」との謝罪の言葉があり、本文中にも「この度のファイル消失は100%弊社の責であると考えており、補償につきましては、ユーザ様、並びに、貴学のご意向に沿うようにいたします」と補償責任を認める言葉が並び、ある意味全面降伏といってよい文面でした。そのため、SNSを中心に話題になりました。

報告書の宛先を見ると「京都大学宛」となっています。ここだけを見ると、日本HPは、自ら公表するためではなく京都大学に報告するために作成したことがうかがえます。報告書を公にしたのは日本HPではなく、報告書を受け取った京都大学です。

ここ数年の流れとして、企業内で不祥事等のリスクが発生した時に、原因を調査するための...

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