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著者インタビュー

性『弱』説を克服するため鍵となるビジネス倫理

井上 泉氏

企業不祥事とビジネス倫理
ESG、SDGsの基礎としてのビジネス倫理

井上 泉/著
文眞堂
425ページ、2530円(税込)

べネッセの個人情報漏えい(2014年発覚)や、かんぽ生命の不正販売問題(2018年)など、過去に世間を騒がせた企業不祥事7例を経営者層の視点で分析した本書。執筆の背景はこうだ。

「1994年に知人の誘いをきっかけに日本経営倫理学会に入り、以降、企業不祥事の実証的な研究を続けてきました。その最初の成果として、2015年に『企業不祥事の研究 経営者の視点から不祥事を見る』(文眞堂)を発刊。それから7年が経った今も、類似した企業不祥事が後を絶ちません」。そこで、過去の事例から得られる教訓を繰り返し伝えていく必要がある、との考えから上梓に至った。

ビジネス倫理とSDGs

では、前書との違いは。それは副見出しにも盛り込まれている「SDGs」「ビジネス倫理」の視点だ。「最近特に思うのが、倫理の問題を抜きにして、単に企業の機関設計、例えば『取締役会に社外取締役を何人入れるか』など、“ハード面”の論議に終始してしまっている企業が多いこと。しかし、実は組織を構成している人の“心”の問題が、企業のパフォーマンスに大きな影響を与えることをもっと意識した方がよいと思います」。

それが「ビジネス倫理」だ。仮に合法でも、消費者や従業員などをないがしろにしていないか、倫理の視点で顧みる。著者は、「性悪説という言葉がありますが、私は性“弱”説を唱えます」。人は弱い。外部の圧力に屈して、倫理上“善し”とされない行為をしてしまう。この性“弱”説に則り、従業員がそうした行動をとらない環境を築くのが本書の狙いだ。

そして、今世界的な潮流となっているSDGs。その目的達成のために企業に求められるのが、他者(社)への配慮だ。「そもそも企業は自分が所属している社会に(提供するサービスや雇用、配当などを対価として)所属を“許される”存在。自社の利益のみならず、各ステークホルダーへの配慮が必要なのは当然のこと。これをより全面的に打ち出すのがSDGsの考え方。それを企業の言葉に置き換えると『ビジネス倫理』ということです」。

広報は経営に直結している

「経営者層の意思を抜きにした広報などあり得ない訳ですから、広報担当者はまさに経営行為を行っているといえます」。とすれば、本書は広報担当者の仕事においても役立つ。

ESGの浸透に伴い、非財務情報の開示が株主らから強く求められるようになった昨今。広報業務におけるIRの重要性は高まる。ただし、ここで注意が必要だ。「美辞麗句を並べた経営理念に対し、実際の企業行動が伴っていない企業が多いのです」と苦言を呈す。

「例えば、本書でも取り上げている2012年発生の笹子トンネルの天井板落下事故。その保守・点検を担っていた中日本高速道路は、経営理念の中では、経年劣化した施設・設備が増えてきており、そのメンテナンスが重要だ、と事故前にCSR報告書に書いてありました。しかし、その重要な詳細点検を12年間放置した結果、天井板落下が起きたのです」。

つまり、社会に発信する経営理念や行動指針と、実際の従業員らの日々の仕事に対する姿勢、その内実伴った状態をつくるのも、広報には求められている、と指摘。「そういった時に本書が役立てば、と思います」。

井上 泉(いのうえ・いずみ)氏
1972年、慶應義塾大学卒、安田火災海上保険(現:損保ジャパン)入社。経営企画部課長、人事課長、国際業務部長等を経て、取締役常務執行役員として、総務部、人事部、リスク管理部、法務部等を担当。東日本高速道路常勤監査役、同社顧問を経て、現在、ジャパン リスク ソリューション代表取締役社長。

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