組織内不正を防ぎ、乗り越えていくには、まずなぜそうした行動が引き起こるのか知っておく必要がある。今回は、身近なストーリーを題材に、人間の機会主義的な傾向と、それを打ち破るポイントについて押さえていこう。
組織内不正の問題が日本全体で大きな問題となっている。この社会問題を社会的正義・不正義の結果であると批判することは、正しいのかもしれないが、問題解決につながる方向ではないのだろう。
機会主義的行動が組織を破壊
まず、組織内不正は、従業員や小グループの機会主義的行動の結果であると捉えるべきである。機会主義的行動とは、自分・自分たちに有利な交渉・取引を行うために、情報の開示を操作し、場合によっては裏切ったりするという行動を意味する。
もちろん非難される行動だが、個人にとっては合理的行動であることは間違いない。機会主義的行動を批判するのではなく、それを抑えるために、どのような仕組みが可能なのか、そして広報担当者はどのようにふるまうべきなのか。この原稿では、『宇宙兄弟』(作:小山宙哉 講談社)という漫画作品を題材に、機会主義的行動を超える態度について考えてみたい。
組織での行動が見える漫画
この漫画について簡単にあらすじを述べよう。主人公の南波六太(なんばむった)は、かつて宇宙飛行士を目指していたサラリーマンである。彼と一緒に宇宙飛行士を目指していた弟の日々人(ひびと)は宇宙飛行士になったが、六太は、いつの間にか夢をあきらめ、鬱屈した日々を送っている。その六太が、再び宇宙飛行士を目指すという物語である。
もちろん、宇宙飛行士はなろうと思ってなれるものではない。彼は、宇宙を目指して厳しい選抜試験を越えていく。つまり、この漫画は、次々と行われる試験への苦闘を描いた「試験漫画」として読むことができるのである。
では、次々と行われる試験によって判断される宇宙飛行士に必要な能力とは何であろうか。知識、判断力、身体能力などが必要とされることは前提であろう。しかし、それ以上に求められる力がある。この漫画を読むと、機会主義的行動に溢れる組織の中で、いかにそれを回避し、組織の健全性を守れるかという能力が問われていることが分かる。本稿のテーマである「機会主義的行動を超える態度」を知るのにうってつけなテキストといえるのだ。