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目指す「組織文化」を浸透させるには?

心理的安全性の高い組織文化 トップの弱みを活かしてつくれ

永井千佳

悪い情報は聞きたくない。そんな無言のメッセージが浸透していれば、不正の未然防止は難しい。失敗を許容し自由に意見ができる組織文化を目指すなら、トップ自らの発信が鍵。そのポイントは。

「不正行為を知りませんでした」。トップの謝罪会見でこんな言葉を聞くたびに「ここも心理的安全性の低い組織なのか⋯」と感じる。悪い情報を出すとトップの機嫌が悪くなるので、ミスは一切報告されない。率直に話せば、自分の身を危険にさらすことになる。そんな心理的安全性が低い組織では、「おかしい」と感じても皆が沈黙する。

「心理的安全性」とは、組織行動学者のエイミー・C・エドモンドソンが提唱している考え方だ。一言でいうと集団の大多数が「皆が気兼ねなく何でも言えて、自分らしくいられる」と感じる雰囲気のこと。逆に心理的安全性の高い組織では、マイナス情報が経営層に速く伝わり不正隠しは起こりにくくなる。

不祥事が発覚した三菱電機が2021年10月1日に公表した調査報告書には、「言ったもん負け」の企業文化があったことが書かれている。同社はまさに心理的安全性が低い組織だったのだ。

エドモンドソンは、2015年に排出ガス不正が問題になったフォルクスワーゲンについても、心理的安全性の低い組織になっていたと分析している。米国の厳しい窒素酸化物排出テストをクリアするための不正で、CEOは悪い報告をした社員を罵倒する人物だった。

記者会見で多くのトップが「不正行為を知らなかった」と口をそろえる。心理的安全性が低い組織では、真実の情報がトップに入らずに不正が起こることが多い。しかしそんな組織をつくったのは、紛れもなくトップの責任だ。

トップの発信が鍵

マイナス情報を報告できる組織文化に変革するにあたり、広報が果たせる役割は大きい。トップのメッセージを社内外に発信する重要な役割を担っているからだ。本稿では、広報が考えるべきポイントとして、❶社外コミュニケーション ❷社内コミュニケーション ❸リーダーシップスタイル ❹プレゼン方法についてお伝えしたい。

❶ 社外コミュニケーション

組織変革の第一歩は、問題が起こったら事実をありのまま可能な限り迅速に社外に伝える、という方針を会社として明確にすることだ。広報部門がトップと経営幹部に働きかけた上で、透明性ある情報発信をする体制づくりの陣頭指揮を執ることで、会社の信頼度は大きく向上する。三菱電機で不正発覚後、新たに就任した漆間啓社長が最優先で取り組んだことのひとつも、社外広報活動だった(週刊東洋経済2021年11月13日号のインタビューより)。

だが方針を掲げただけでは社内から悪い情報は上がってこない。広報は社内コミュニケーションを整備し、社員が自由に話せる文化をつくることも行うべきだ。

❷ 社内コミュニケーション

必要なことは「何を聞いてもよい」というトップの方針を、社内に浸透させる仕組みをつくること。その際に重要なのは、トップ自身が腹蔵なく話して、社員の声に耳を傾ける謙虚さを示すことだ。「そんなのは当たり前」と思いがちだが、これが実に難しい。現実には社員と上手くコミュニケーションできていないのに、トップは「しっかりと話せている」と勘違いしていることが多いのだ。

広報は社員とのコミュニケーション密度を高める方法を考えるべきだ。一例が、トップと社員が直接話し合うタウンホールミーティングの開催。Q&Aセッションでトップが「何を聞いてもよい」と繰り返し社員に伝えることで、社員が話しやすくなり...

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