メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は成蹊大学の伊藤昌亮ゼミです。

伊藤昌亮ゼミ室の様子。
DATA | |
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設立 | 2015年 |
学生数 | 3年生12人、4年生13人 |
OB/OGの主な就職先 | 読売広告社、日経広告社、マイナビ、三菱東京UFJ銀行、日本生命 |
伊藤昌亮教授が教鞭を執る、成蹊大学 文学部現代社会学科では、「社会学」と「メディア研究」の2つの軸を置き、複雑化する現代社会にアプローチ。社会学では、家族、社会心理、ジェンダー、福祉、労働、都市など、現代社会の様々な側面について分析。メディア研究では、雑誌、テレビ、広告、インターネットなどの各種メディアを通じたコミュニケーションについて学ぶ。
新しい動きを生み出すネット社会
ゼミでは、SNSやスマートフォンなどのデジタルメディアを介した人々の「集まり」について、「集合行動」「社会運動」「文化運動」という観点から考えていく。
「集合行動」とは、不特定多数の人々が一緒に何かを行うこと。その中からより持続的な動きとして形成されるのが「社会運動」、とりわけ文化の領域で展開されるのが「文化運動」だ。
いずれも20世紀初頭、“都市”という場に人々が集まり、そこから生み出された「都市群衆」が歴史の原動力となった時代に注目された概念だが、伊藤教授によると、それから1世紀後の現在、今度は“ネット”という場に人々が集まり、そこに生み出される「情報群衆」が社会の推進力となりつつあるという。
「人々は炎上を起こし、わけもなく攻撃的になって大騒ぎするかと思えば、ときに路上に集結してデモを起こし、一致団結して社会変革を訴えます。また、特定のコンテンツ、アイドル、ファッションなどを巡って盛んに交流を繰り広げます。そうした動きの中から、政治の領域には『新しい世論』が、経済の領域には『新しい消費』が、文化の領域には『新しい表現』や『サブカルチャー』が生み出されつつあります。こうした動きが今後、社会をどう変えていくのか。ゼミでは、様々な角度からこの問題について考え、調べ、学生同士でディスカッションして、理解を深めてもらいます」。
リサーチ力と発信力
3年前期は、4年生の研究発表をもとにディスカッションを行ったり、消費社会論・若者論・SNS論などに関する文献講読に時間をあて、基礎知識を身に付ける。後期では、ネット炎上に関する事例調査を行った後、4年次の卒業論文作成に向けて、研究計画書を作成する。
「学生には、『リサーチ力』、つまり調査・分析・考察のための力と、『発信力』、つまり企画・提案・表現のための力の、両方を高めてもらいたいと考えています。リサーチ力の面では、特に現代社会の複雑な動きに対する理解力と、社会調査やメディア調査の方法論を身に付けてもらいます。発信力の面では、グループワークを通じてアイデアを創発するためのコラボレーションスキルを養ってもらいます。これら両面の力を高めることで、ファクトとロジックに裏付けられたクリエイティビティを身に付けてもらいたいと思っています」。
後期で行うネット炎上の事例調査は、『リサーチ力』を醸成するためのアプローチ。誰が、なぜ、どのように怒っているのか、誰と誰が言い争っているのかを調べることで、現代社会の複雑な動きと、その背後にある対立構造、さらにその根幹にある問題意識を探ることを目指す。「一見ネガティブな題材に見えますが、しかしそこにこそネット社会のエネルギーがあり、それをポジティブな方向に向け直すにはどうすればよいのかを考えることが、ゼミのテーマのひとつでもあります」。

学生たちと二人三脚で調査、研究を行っていく。これまでの卒業論文のテーマとしては、「メディアイベントとしての箱根駅伝」「魔法少女論」「なぜハロウィーンに仮装して渋谷に行くのか」など。
新しい社会の構築 現場から研究、そして教育の場へ
伊藤教授の学生時代の専攻は文学。卒業後はIT企業に入り、メディア企業のシステム構築に関わった後、編集者に転じ、書籍の出版やデジタルコンテンツの企画に携わってきた。
「今までの経験を総合すべく、文理融合型の大学院に入り、学位を取りました。新しいメディアの形成に伴い、テクノロジーと人間が相互作用を繰り広げながら新しい社会をつくり出していく様子を、まず現場で経験し、次いでそれを研究の場、そして今は教育の場から検討するに至っています」。
現在はメディア、とりわけソーシャルメディアと社会運動、集合行動との関わりについて、研究を進めている。

伊藤昌亮(いとう・まさあき)教授
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。日本IBM、ソフトバンク、愛知淑徳大学などを経て、2015年から成蹊大学 文学部教授。著書に『ネット右派の歴史社会学』『デモのメディア論』『フラッシュモブズ』など。