新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
2年ほど前、タピオカドリンクが巷でブームになっていたころに台湾のタピオカミルクティー発祥の店であり、日本ではオアシスティーラウンジが運営する春水堂を紹介しました。その後も広報の工藤芽生さんから定期的に届くリリースの中で気になったのが「試飲リリース」。これは、メディア関係者が店舗に持参すると話題の新商品を試飲できるというものです。
コロナ禍以降、試食や試飲を伴う記者発表は非常に開催しづらくなっています。飲料や食品は実際に味わわないと記事が書きにくいため、広報担当者は皆困っていました。そんな中で見た春水堂の「試飲リリース」は、「この手があったか!」という新ワザなので、ぜひご紹介したいと思います。
工藤さんがこの試飲リリースを始めたのは2020年3月のこと。意外なことに、その発端はコロナ禍ではありませんでした。「一度紹介してくださったメディアの場合、短期間のうちに何度も掲載していただくのは難しいものです。記者発表のリリースを送っても『ごめんね、今回は載せられないから』とご遠慮される記者さんも多いんです。それで新商品を試していただけないのは悲しいし、ずっと春水堂のファンでいていただきたいと考えついたのがこの試飲リリースでした」。
それでも最初は遠慮する記者が多く、「記事にしなくても大丈夫ですから」と根気強く働きかけを続けた結果、今ではだいぶ利用してもらえるようになったといいます。
試飲チケットというアイデア
では、そのリリースを見てみましょう。今回は旬の国産フルーツと高品質の茶葉でつくる「果肉茶」という新シリーズの第1弾となる「メロン」です。
(ポイント1)まず面白いのは、リリースの形式でメディア限定の試飲券を配布していること。大手外食チェーンの中にも、記者に無料券を渡しているところはありますが、リリース形式で配信する形は初めて見ました。これならメディアのみが対象ということも伝わりますし、新しいジャンルのリリースを生み出したといえるでしょう。
(ポイント2)さらに面白いのは、試飲に事前予約などは必要なく、ストレスフリーなこと。記者は行きたい時に好きな店舗でこのリリースと名刺を提出すれば、どの店舗でも試飲できるのです。これは「記事を書かなければ」という強迫観念を軽減する働きがあります。
「名刺を確認しても、こちらから電話をかけたりはしません。また同僚の方が一緒に試飲にいらしても、その方にも連絡しません。『こういう方がいらっしゃるんだな』と記憶しておいて、もしその方が取材をしてくださったら、『あの時の方だな』と分かればいいので」と、押しつけがましさがありません。それでも「店舗の方の対応がよかったです」などの連絡をくれる記者もいるそうです。とはいえ記事になる確約はないので、それを認める会社も懐が深いなと感じます。
企画を出したときにすんなり通ったのは、何人くらいの記者が飲みにきてどのくらいの費用が必要かという計算ができており、メディアとの良好な関係を持続したいという狙いが社内でもきちんと理解されたからでしょう。
(ポイント3)また、同社では新商品発売のひと月前に、別途リリースを出しています。新商品の発売時期に記事化してもらうためには当然のことですが、あとから試飲リリースが届くことで、まだ記事化していないメディアに思い出してもらうダメ押し効果もあります。案件によっては、同時に配信することもあるそうです。
リリース2枚目には、先にスマホで注文や決済を済ませて店舗で商品を受け取るだけのモバイルオーダーにも触れています。春水堂は当初、自社専用システムを利用していましたが、途中からほかの...