「探索」と「活用」を同時に追求する「両利きの経営」が近年提唱されています。今回は、その実現を支援するオフィスのデザインについて、先行研究をもとに考えます。
前回は知識創造の場としてのオフィスという考え方を紹介しました。今回はイノベーションを促すオフィスに関する実証研究の結果を紹介し、活動内容に合わせたオフィスに関する理解を深めていきます。
「両利きの経営」とは
近年、経営学で注目されている考え方のひとつに、「両利きの経営(ambidexterity)」があります*1。ここで重要となるのが、「探索」と「活用」という2つの活動です。「探索」は、既存の知識とは異なる知識を探すことで、新たな可能性を見いだす活動を、「活用」は既存の知識を探し、それを利用することで問題解決を行うことを指します。これらの活動に適した組織構造や業務フローなどが異なるため、同時に取り組むのは容易なことではありません。
*1 多数の研究が行われていますが、読者の方にとってアクセスが容易なものとして、以下の文献を紹介します。チャールズ・A・オライリー&マイケル・L・タッシュマン(入山章栄監訳・解説/冨山和彦解説/渡部典子訳)『両利きの経営』東洋経済新報社, 2019.
また、不確実性を伴い、成果の予測しにくい「探索」と比較すると、既存事業の改善・改良により成果が期待できる「活用」に取り組みがちです。しかし、企業が長期にわたって生存するには、改善・改良のみならず、新たな価値の提供が不可欠です。その実現には「探索」と「活用」の適切なバランスを取らねばなりません。このような同時追求が難しい活動を両立することを「両利き」に例えているのです。
「両利き」を実現するオフィス
「両利きの経営」の実現にオフィスが影響を与えるという研究があります。研究対象となったのは欧州の大手製薬会社ノバルティスです。同社では2010年から数年間...